cseas nl75 所長からのメッセージ

東南アジア地域研究研究所 近況

速水洋子(京都大学東南アジア地域研究研究所)

京都大学東南アジア地域研究研究所は2017年1月1日に、旧東南アジア研究所と旧地域研究統合情報センターが統合して一つの新しい研究所として出発し、はやくも3年が経ちました。

京都大学東南アジア地域研究研究所 図書室

 私たちの住む世界は今や不安定性と偶発性に満ちて、日々刻々と変化しています。科学技術のめざましい発展の一方で、環境劣化や人口の高齢化、感染症や災害、紛争や貧困、差別や不平等といった喫緊の課題に直面しています。より複合的な対応を求められるこうした課題に立ち向かうために、統合後の新研究所では、多分野・多国籍のベテランから若手まで、多彩な研究者が分野を越えた研究を進め、東南アジアという特定の地域と世界の諸地域とを相互に比較し、さらに、立ち返って自らの足元である日本について考えながら、問題への地域ベースの複合的な理解と解決へ指針を提供することを目指しています。

第43回 東南アジアセミナー (ベトナム)

 2019年度の本研究所の歩みの一部をご紹介しましょう。現代世界の政治・社会・生態的状況にあって、将来に向けて課題解決を担っていく次世代研究者の育成は、喫緊の課題です。本研究所は、学内の大学院研究科と協力するとともに、ポスドク研究者の受入れ・育成に力を入れています。国内外から多くのポスドク研究員や若手の研究者を国際公募で募集し、厳しい選考を経て採用しています。今年も新たに4名のポスドク研究者を雇用しており、これを含めて現時点でプロジェクト経費や学内経費等の財源により、7名のポスドク研究員(うち6名は外国籍)を雇用しています。この他、学振特別研究員や科研費による研究員、そして多くの連携研究員が所属しています。本研究所は、所内教員の組織する研究会や、多い時には週2-3度にわたる公開セミナーなどで、京都を訪れる諸外国の研究者による講演を聞く機会に恵まれており、若手研究者はそうしたセミナーに参加し、また互いに机を並べて切磋琢磨する機会を得ています。こうした若手研究者の存在が、研究所全体に活力をもたらしています。

 また、1977年から毎年東南アジアセミナーを開催してきましたが、2010年以降は東南アジア各国で実施しています。現地機関の協力を得て国際的に公募した若いポスドク研究者を集め、毎年テーマを設定して現地開催により実施してきました。今年はベトナムのハノイ及び近郊で11月7日~13日に実施しましたが、東南アジアを中心に多くの若手研究者が参加し、所内からもポスドクや若手研究者が参加して、「Economic Growth, Ecology and Equality: Learning from Vietnam」というテーマのもとで、現地視察をしながら議論し交流する貴重な機会となりました。こうして、様々な形で次世代を担う研究者に、当研究所の学際的な研究を学んでもらう機会を提供しています。

Visual Documentary Project 2019 東京上映会

 より広く、東南アジアに対する親しみや理解を持ってもらう試みも実践しています。なかでも2014年以来開催しているビジュアル・ドキュメンタリー・プロジェクトでは、東アジア各国の若手映像作家の映像作品を毎年公募し、その中から選ばれた作品の監督を招いて、京都で上映し交流するプログラムです。国際交流基金アジアセンターのご協力も得て年々盛り上がりをみせており、今年は「Justice」をテーマに映像の投稿を呼びかけ、東南アジア全域から161の応募がありました。選ばれた5作品の若手監督を招いた上映会は、これもまた若い力の漲る機会であるとともに、市内外から一般の方たちの参加も多く、中には毎年楽しみにしてくださる方たちも増えてきました。秋には、京都映画祭と連携した上映も行っており、総じて社会連携のこの上ない手段ともなってきました。

 以上は、2019年度の活動のうち若手を中心とする一端をご紹介しました。このような様々な研究活動、知識と情報、資源の共有を通じて私たちはベテランから若手まで、多分野の研究者が、持続可能な自然環境や多元的な社会の共生を可能にする様な地球コミュニテイの形成を目指して日々、研究に邁進しています。皆様の更なるご協力とご支援をお願い申し上げます。

 

 

もう少し深く知りたい方への文献紹介