CCSEASの恒例行事のひとつである「東南アジアセミナー」を、2019年度はベトナムにて開催した。ハノイ国家大学自然資源環境研究センター(CRES)の全面的な協力のもと、全体テーマを「経済成長・生態・平等-ベトナムの経験から学ぶ」として掲げ、2019年11月7日~13日の7日間、ハノイおよびゲアン省にて実施した。セミナーには、世界各国から応募のあった70数名の応募者の中から選抜された、ベトナム、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアの11名の若手研究者が参加した。CSEAS側からは異なる専門を持つ12名が参加し、講義やフィールドワーク、ワークショップを実施した。
CRES所長リウ・テー・アイン博士の講義
11月8日は、ベトナム側の専門家による特別講義が行われた。CRES所長リウ・テー・アイン博士は、都市および農村計画の観点から、近年のベトナムにおける経済発展とそのリスクについて述べた。ベトナム農業科学アカデミー副総裁ダオ・テー・アイン博士の講義では、ベトナムで過半数を占める農村人口を念頭に置き、農業政策の歴史を回顧しつつ、経済発展を指向する政策と格差是正のための政策とのせめぎあいについて議論した。CRES研究員ギエム・フオン・トゥイエン博士は、近年の変化が著しい、ハノイおよびホーチミンの都市周辺部の社会変容について述べ、地域ごとに異なる都市化のプロセスの中で必死に経済発展に追いつき波に乗ろうとするローカルな人々の試行錯誤を紹介した。CSEASからは速水洋子所長が、ジェンダーや差異、多様性を切り口にして、東南アジア社会の新しい見取り図を示した。その後、他のCSEAS側の参加者から、経済発展、生態環境、社会的平等に焦点をあてた連続講義が行われた。翌11月9日は、経済成長下の都市近郊農村社会を実際に見聞するため、さまざまな工芸村にてフィールドワークを行った。11月10日にはラオスとの国境に近いゲアン省アインソン県に移動し、11~12日にかけて、中心から離れた「辺境」の農村社会におけるフィールドワークを実施した後、ハノイに戻った。最終日となる11月13日はワークショップを開催し、東南アジアからのすべての参加者による口頭発表と質疑応答の時間を設けた。発表者は、自分自身の研究関心をベトナムで見聞し学んだことと融合させながら、どのような新しい知見が得られたのかについて述べ、参加者と活発な議論を繰り返した。
食事中のディスカッション
ワークショップ全体を通じて印象的だったのは、講義やワークショップの時だけでなく、フィールドワークの最中や、毎日の朝食・夕食時に、多くの人が意見を交換しながら過ごしていたことである。学際的な研究を進めるには、異分野の研究者と率直な意見交換が欠かせない。本セミナーは、CSEAS側が一方的に何かを教示するためのセミナーとしてデザインされたのではなく、東南アジア諸国からの参加者とCSEASの研究者がともに同じ場を共有し議論を繰り返すことで、双方が分野を越えた知識や考え方を身につけることを目的としていた。とても濃密でリッチな時間を共有することができたことに、この場をお借りして御礼申し上げます。