cseas nl75 新任スタッフ紹介

藤倉 康子
FUJIKURA Yasuko

相関地域研究部門・日本学術振興会特別研究員PD
博士(人類学、ニュースクール大学(New School for Social Research))
専門分野は文化人類学

 私はこれまで、ネパールの様々な社会集団の中で差別の対象となってきた「不可触民」、その中でも最下層に位置づけられた「バディ」というカーストの、1990年代以降の社会変容における「家族」の問題に関する研究をしてきました。ネパールとのおつきあいは20年以上になりますが、はじめから、大学院で博士号をとりたいとか、ネパールでこういう働きがしたい、といった大きな目標をもって歩んできたわけではなく、その時々の自分のおかれた環境の中で、できることをしてきて、それが今につながっているのだと思います。

 大学では国文学を専攻しましたが、その後結婚した相手がアメリカの大学院に留学中だったので、私もアメリカで暮らし始め、夫の調査に同行してネパールに行くようになりました。その時の出会いや問題意識から、私自身も文化人類学を学び始め、ニューヨークのNew School for Social Researchで博士課程に在籍しながら、西ネパールで歴史的に「売春を生業とする不可触民」とみなされてきたバディ・コミュニティでの調査を行いました。

 私は、このコミュニティにおける社会変化の過程で、結婚、子どものことが問題となってきたことに着目し、社会的規範としての「家族」と日常的な生活における家族関係との矛盾を人々がどう体験したのかを理解するため、3世代の男性、女性、子どものライフヒストリーを集めました。またちょうどその頃、多くのバディの女性たちが正式に結婚できなかったことは歴史的差別であり、父親に認知されなかった子どもたちが法的権利を得られなかったことは政治的な問題であるとして、国の責任を問う社会運動が行われていて、私も役所での出生登録、行政機関との交渉、法律専門家との会合、最高裁判所法廷に同行したりしました。

 この時の体験から、売買春と婚外の家族形成の問題を、婚姻規範や家族制度に関する議論の中に位置づける必要性を痛感し、現在は日本学術振興会特別研究員(PD)として、「家族の承認と周縁性」という研究課題に取り組んでいます。またジェンダーに基づく暴力に関する共同研究では、近年移住が増加しているムンバイにも調査地を広げ、移動や親族ネットワークの維持と性的搾取・暴力の問題について試行錯誤しています。