9.2 Transforming society of Minority through protestant Evangelism: Cases from the Karen’s missionary in Burma and Thailand

これまで、東南アジア大陸部のマイノリティのキリスト教宣教及び受容に関する多くの先行研究は、キリスト教化を民族アイデンティティの形成との関連や教義の翻訳と改宗の動機などといった形而上学的な側面に着目して論じてきた。これに対して、本パネルではカレンを事例として、プロテスタント宣教を通したマイノリティの社会変容の一端を明らかにすることを目的とした。

特に、民族意識の形成に関しては、歴史的な視点からカレン語一次文献をもとにより実証的に示すために、1850年代にタウングーで活躍したカレン人宣教師Saw Qualaに着目した。そして、改宗したカレン信徒自身の宣教活動における主体性やカレン自身の民族意識に関する視点を明らかにした(藤村:Being Baptists, Broadening “Karen-ness”)。

また、キリスト教の受容は民族意識や教義などの形而上学的な側面のみならず、人々の生活スタイルや社会のあり方そのものを再編すること、特にプロテスタントは資本主義との親和性が高く、労働や生産の概念に変化を及ぼすことから、改宗後数世代が経過したコミュニティにおいて、現在の社会経済的な文脈の中でのキリスト教の日常生活への影響を考察した。そして、タイのカレンの互酬性や贈与概念の変容に着目し、キリスト教受容が、民族アイデンティティ強化や脱社会化した経済合理的個人の形成とは別の方法(内向的発展)でローカル社会を再編する過程を示した(田崎:Changing Karen’s idea of reciprocity and involution of community development: under the influence of Protestantism and cash cropping in Thailand)。また、ヤンゴンのカレン・コミュニティにおける教会の役割に着目し、コミュニティの発展を具体的に明らかにした(Naw Si Blut, co-authored by Hayami Yoko:Living in Harmony: Karen Community in Insein Township)。

質疑応答では、野蛮/飼いならされた、野蛮/文明という東南アジア社会に広くみられる概念とキリスト教宣教との関連について(藤村発表に対して)、カレン・コミュニティ内での宗教間・民族間の調和の要因や、KNU/KNDOが本部を置いていた時代の戦闘との関連について(Naw Si Blut発表に対して)、キリスト教受容による社会的影響と、山地社会や人びとの暮らしに変化を与えうるその他の要因(資本主義化、商業化)との線引きについて(田崎発表に対して)などが指摘された。

Panelists:
1. Changing Karen’s Idea of Reciprocity and Involution of Community Development: Under the Influence of Protestantism and Cash Cropping in Thailand
Ikuko Tazaki (Ichikawa) (Otani University)

2. Being Baptists, Broadening “Karen-ness”
Hitomi Fujimura (Sophia University)

3. Living in Harmony: Karen Community in Insein Township
Naw Si Blut (SEAMEO Regional Centre for History and Tradition)

Discussant: Kwanchewan Buadaeng (Chiang Mai University)

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