所属部門:社会文化相関研究部門
職 名:研究員
専門分野:地域研究(東南アジア)、社会史、政治史
E-Mail:shimojo[at]cseas.kyoto-u.ac.jp
個人WEBページ:
研究概要:
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ベトナム戦争と社会主義の時代、特に激しい政治的動乱を経験したベトナムのカンボジア国境周辺地域を対象に、住民と政治権力の間で、統治のあり方と住民達の生存をめぐり生じてきた対立や折衝の歴史過程を考察してきた。
フランス植民地統治が終焉した20世紀半ば以降、新たに成立したベトナムの国家権力は、その領域となった世界有数の米生産地メコンデルタの資源と労働力を、戦争や国家建設へと動員しようとしてきた。この国家政策への住民達の対応と、生き残りを図るかれらの行動が統治に与えた影響を考察するため、メコンデルタ沿岸部ソクチャン省の一地域社会における歴史の再構成に努めてきた。植民地化以前まで国家の政治的フロンティアであったソクチャン省は、多数派ベト人のほか、言語や上座仏教を介してカンボジアと結ばれてきたクメール人や、輸出米の流通網を築き上げてきた華人が、現在でも多数暮らしている。時に国境を越えた範囲で移動してきたそこの住民達は、かれらの国家への忠誠を疑う政治権力との間で、資源と労働力の供出をめぐって特に激しい駆け引きを展開してきた。
同地域の人々は、戦争中や社会主義による混乱のなか、国家によって課された義務から逃れるため、メコン河流域やシャム湾沿岸地域に沿って、ベトナムからカンボジア、タイへ拡がっていたルートを利用し、闇米取引や違法な出稼ぎ、国外逃亡などに従事していた。なぜ、メコン河川流域やシャム湾沿岸地域は、動乱期において非合法活動の従事者が集まってきたのか。なぜそこでは、国家の管理が及びにくく、非合法活動が公然と行われてきたのか。非合法のルートはいかなる空間で、どのような人間関係に基づき生成され、現在はいかなる状況にあるのか。そして各国の政治権力はそのルートをいかに管理または利用してきたのか。これらの問題を解明するため、メコン河流域とシャム湾沿岸地域に着目し、ベトナムからカンボジア、可能ならばタイにまで調査範囲を拡げていく予定である。
業績:
1.著書
1) 下條尚志、『戦争と難民―メコンデルタ多民族社会のオーラル・ヒストリー』風響社、2016年10月
2.学術論文
1) Shimojo, Hisashi, “The Concept of Lai (Mixed Blood) in Mekong Delta: A Reconsideration of the Ethnic Categories in Vietnam.” In Giang day, Nghien cuu Viet Nam hoc va Tieng Viet: Nhung Van de Ly thuyet va Thuc tien[Vietnamese Studies: The Issues of Methodology and Practicality]ed. Vo Van Sen. Ho Chi Minh City: Nha Xuat ban Dai hoc Quoc gia TP.HCM [Vietnam National University – Ho Chi Minh City Press], pp. 626-634, January 2016
2) 下條尚志、「脱植民地化過程のメコンデルタにおけるクメール人の言語・仏教・帰属」、『アジア・アフリカ地域研究』、第15巻1号、 pp. 20-48、2015年11月 (査読有)
3) 下條尚志、「メコンデルタにおける支配をめぐるせめぎあい―地域社会の人々のローカル秩序と回避の「場」(1976~1988年)」、『東南アジア研究』、第51巻2号、pp. 227-266、2014年1月 (査読有)
4) 下條尚志、「ベトナム・サイゴン政権の中部高原統治―先住山地民の土地所有権に対する政策を中心に」、『アジア経済』、第52巻5号、pp. 2-31、 2011年5月(査読有)
5) 下條尚志、「ベトナム・サイゴン政権の山地民統治の転換―山地民暴動以後の中部高原における土地政策を中心に」、下條尚志・首藤あずさ・堀江未央・佐久間香子編『マイノリティの諸相―日常における葛藤や交渉へのまなざしから』、松香堂書店、pp. 1-13、2010年10月
3.学位論文
1) 下條尚志、「統治と生存の社会史―ベトナム南部メコンデルタの戦争と社会主義」、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科提出博士論文、pp. 324、 2015年7月
2) 下條尚志、「サイゴン政権による領域国家形成―ベトナム中部高原における山地民と土地支配」、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科提出博士予備論文(修士論文に相当)、pp.86+地図8頁、2009年2月
4.書評
1) 下條尚志、「書評 高田洋子著『メコンデルタの大土地所有―無主の土地から多民族社会へ フランス植民地主義の80年』」、『東南アジア 歴史と文化』、東南アジア学会、第44号、pp.184 -188、2015年5月(依頼有)
5.学術雑誌等又は商業誌における解説、総説
1) 下條尚志、「関西館アジア情報室が所蔵するベトナム語資料 について」『アジア情報室通報』、第14巻4号、pp. 2-6、2016年12月
2) 下條尚志、「マイノリティと土地」下條尚志、首藤あずさ、堀江未央、佐久間香子編『マイノリティの諸相―日常における葛藤や交渉へのまなざしから』、松香堂書店、pp. 55-56、2010年10月
3) 下條尚志、「フィールド便り コーヒーとベトナム―ベトナム中部高原の先住民社会とコーヒー栽培」、『アジア・アフリカ地域研究』、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、第8巻1号、 pp. 101-106、2008年9月
6.学会会報等に掲載された発表要旨
1) Shimojo Hisashi, “The Concept of lai (Mixed Blood) in Southern Vietnam: A Case of P Village in Soc Trang Province of Mekong Delta.” The 8th Vietnamese-Japanese Students’ Scientific Exchange Meeting “Bilateral Cooperation: Strategies for Sustainable Development” Proceedings, p.115, October 2015
2) 下條尚志、「ベトナム戦争時代メコンデルタにおける統治と生存をめぐるせめぎあい」、『東南アジア学会会報』、東南アジア学会、第100号、p.15、2014年5月
3) 下條尚志、「サイゴン政権下ベトナムの土地政策と山地民―中部高原地域における焼畑耕作地の所有権をめぐって」、『東南アジア学会会報』、東南アジア学会、第91号、p.17、2009年11月
7.国際会議・ワークショップにおける発表
1) Shimojo Hisashi, “Local Politics in National Border-Crossing between Southern Vietnam and Cambodia: Mobility in the Mekong Delta after the Cold War,” In 2016 Annual Conference on Southeast Asian Studies in Taiwan (ACSEAST), “The Politics of Transformation in Southeast Asia: Towards A People-Centered Agenda,” National Chengchi University, Taiwan, September 2016(査読有、Best Paper Award受賞、 http://www-archive.cseas.kyoto-u.ac.jp/www/2016/2016/10/20161003/ )
2) Shimojo Hisashi, “The Concept of lai (Mixed Blood) in Mekong Delta: Reconsideration of the Ethnic Categories in Vietnam.” International Conference with the Topic “Vietnamese Studies: The Issues of Methodology and Practicality,” Binh Chau, Ba Ria-Vung Tau, Vietnam, January 2016(査読有)
3) Shimojo Hisashi, “The Concept of Lai (Mixed Blood) in the Vietnamese Mekong Delta: Case Studies of P Village in Soc Trang Province.” Vietnamese – Japanese Students’ Scientific Exchange Meeting, Kyoto University, Japan, October 2015(依頼有)
4) Shimojo Hisashi, “Land Policy and Highlanders in Vietnam at War: Over Land Title of Swidden Agriculture in Central Highlands.” International Workshop on Minorities in Asia and Africa: From Perspective on Conflicts and Negotiations in Everyday Life, University of Yaounde I, Cameroon, August 2009
8.国内学会における発表
1) 下條尚志、「ベトナム―カンボジア国境をめぐるローカルな政治―冷戦終結後メコンデルタの人々の越境移動」『東南アジア学会第96回研究大会』、慶應義塾大学、2016年12月
2) 下條尚志、「ベトナム戦争時代における統治と生存をめぐる地域社会-政治権力間関係―メコンデルタ・ソクチャン省フータン社を事例に」『日本ベトナム研究者会議』、東京大学、2014年5月(依頼有)
3) 下條尚志、「ベトナム戦争時代メコンデルタにおける統治と生存をめぐるせめぎあい」、『東南アジア学会第90回研究大会』、東京外国語大学、2013年12月
4) 下條尚志、「ベトナム・メコンデルタのクメール居住地域における土地改革と地主層の解体」、『日本カンボジア研究会』、京都大学、2012年7月(依頼有)
5) 下條尚志、「サイゴン政権下ベトナムの土地政策と山地民―中部高原地域における焼畑耕作地の所有権をめぐって」、『東南アジア学会第81回研究大会』、京都大学、2009年6月
9.研究会における発表
1) 下條尚志、「ベトナム―カンボジア国境をめぐるローカルな政治―冷戦終結後メコンデルタの人々の越境移動」『白山人類学研究会』、東洋大学、2016年10月
2) 下條尚志、「冷戦終結後ベトナム―カンボジア国境の越境者をめぐるローカルな政治」『東南アジアの社会と文化研究会』、京都大学、2016年7月
3) Shimojo Hisashi, “The Concept of lai (Mixed Blood) in Mekong Delta: Reconsideration of the Ethnic Categories in Vietnam.” Hayase Shinzo Seminar, Waseda University, January 2016
4) 下條尚志、「脱植民地化過程のメコンデルタにおけるクメール人の言語・仏教・帰属」『東南アジア学会関東例会』、東京外国語大学、2016年1月
5) 下條尚志、「メコンデルタの政治的重要性と統治の難しさ―ソクチャン省を事例に」第59回ベトナムに関する勉強会、東京外国語大学本郷サテライト、 2014年7月
6) 下條尚志、「戦時下ベトナム・メコンデルタにおける統治をめぐるせめぎあい」、『仙人の会10月例会』、法政大学、2013年10月
7) 下條尚志、「集団化を回避する―ベトナム南部メコンデルタにおける地域社会-国家間関係(1976~1988年)」『東南アジア学会関西例会』、京都大学、2013年5月
8) 下條尚志、「集団化を回避する―集団化時代におけるメコンデルタ村落とベトナム国家」、『百越の会』、国立民族学博物館、2013年3月
9) 下條尚志、「ベトナムのクメール人社会―村民が経験してきた歴史」、『村嶋科研研究会』、早稲田大学、2012年7月
10) 下條尚志、「サイゴン政権下ベトナムの土地政策と山地民―中部高原地域における焼畑耕作地の所有権をめぐって」、『東南アジア学会関西地区例会』、京都大学、 2009年5月
11) 下條尚志、「サイゴン政権による領域国家形成―ベトナム中部高原における土地支配と山地民」日本文化人類学会・近畿地区研究懇談会、国立民族学博物館、 2009年3月
10.競争的資金
1) 2016年4月~2020年3月:科学研究費補助金基盤研究(B)、「ベトナム・中国二国間関係の下で揺れ動くベトナム華人に関する歴史的研究」(研究分担者)、代表者:伊藤正子
2) 2016年4月~2020年3月:科学研究費補助金基盤研究(C)、「東南アジア大陸部宗教研究の新パラダイムの構築」(研究協力者)、代表者:片岡樹
3) 2015年9月~2017年3月:日本学術振興会科学研究費「研究活動スタート支援」、「20世紀東南アジア大陸部の河川・海域世界―メコンデルタから越境する生存ルート」(研究代表者)
4) 2015年4月~2016年3月:京都大学東南アジア研究所、共同利用・共同研究拠点「東南アジア研究の国際共同研究拠点」、「統治と生存の社会史―ベトナム南部メコンデルタの戦争と社会主義」(研究代表者)
5) 2012年4月~2015年3月:日本学術振興会特別研究員奨励費、「クメール・クロムのアイデンティティ-生れ故郷のベトナムとルーツとしてのカンボジア」(研究代表者)
6) 2009年9月~2012年3月:松下幸之助記念財団、「ベトナム中部高原社会の土地所有意識・制度に関する歴史的研究」(研究代表者)
7) 2009年8~9月:京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科「大学院教育改革支援プログラム、研究と実務を架橋するフィールドスクール」、「アジア・アフリカにおけるマイノリティの諸相―日常における葛藤や交渉へのまなざしから」(研究協力者)、代表者:堀江未央
8) 2009年1月:京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科「大学院教育改革支援プログラム、研究と実務を架橋するフィールドスクール」、「ベトナム中部高原地域・山地民社会における土地意識・制度と慣習法に関する研究 ―近代国家の理念とローカルな社会で生成される信念の相克」(研究代表者)
9) 2007年12月~2008年2月:京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科「魅力ある大学院教育イニシアティブ・プログラム、問題発見型フィールドワーク」、「戦時下におけるベトナム中部高原社会の変容」(研究代表者)
11.社会活動
1) 2016年11月 京都大学東南アジア研究所主催、東南アジアセミナー幹事。
2) 2016年4月~ 京都大学東南アジア研究所主催、ゾミア研究会幹事。
3) 2016年4月~ 東南アジア学会、関西例会幹事。
4) 2015年7月に文部科学省スーパー・グローバル・ハイスクールのプログラムにおいて、兵庫県立兵庫高校において、「フィールドワークから見える歴史」というテーマで講義を実施。
5) 2015年11月に、全国市町村国際文化研修所(全国の地方公共団体の公務員教育を行っている機関)において、「ベトナム南部からみた歴史と社会」というテーマで講義を実施。