民主化における司法の役割─タイとインドネシアの比較─

研究代表者:外山 文子(京都大学・東南アジア研究所)
共同研究者:玉田 芳史(京都大学・アジア・アフリカ地域研究研究科)
      岡本 正明(京都大学・東南アジア研究所)
      永井 史男(大阪市立大学・法学研究科)
      相沢 伸広(九州大学・地球社会統合科学府)
      見市 建(岩手県立大学・総合政策学部)
      川村 晃一(日本貿易振興機構アジア経済研究所・地域研究センター)

実施期間:2013-2014

  
研究概要:

研究会の様子(2013 年10 月25 日)

研究会の様子(2013 年10 月25 日)

 現在、世界的に民主化における司法の役割に対して注目が集まっている。東南アジアにおいても例外ではない。特に、タイにおいては憲法裁判所が与党を解党するなど、政治的に大きな影響力を持つようになった。しかし、一部のタイ国民の間からは、憲法裁判所の判決に対して強い反発が生まれている。反対に、インドネシアでは民主化において憲法裁判所が果たした役割に対し、積極的な評価がなされている。本研究会では、タイとインドネシアの憲法裁判所の制度設計や政治的背景について比較検討し、民主化における司法の役割について新たな視座を提示する。

 
 
詳細:

王妃の誕生日を祝う憲法裁判所(2014 年8 月12 日)

王妃の誕生日を祝う憲法裁判所(2014 年8 月12 日)

 冷戦終結後、世界的に政治の民主化が進む中で、民主主義の「質」が問われるようになった。民主主義の「質」を保証するために、特に新興民主主義国において、司法の政治的な役割が期待されるようになった。東南アジアの状況を概観すると、タイとインドネシアが民主化に関して好対照な軌跡を辿っていることがわかる。

タイは、1990 年代には、タイ史上最も民主的といわれている1997 年憲法が誕生したことにより、民主化の定着期に入ったと見なされていた。しかし2006 年に再び軍事クーデタが起こり、その後に憲法裁判所が与党を2 度解党したことにより政治は不安定となった。憲法裁判所の判決に対する反発などから、各地で大規模デモが起こるようになり、2014 年5 月に軍事クーデタが起こった。反対にインドネシアは、長らく権威主義体制であったが、1998 年にスハルト体制が崩壊した後、民主化が進展した。現在インドネシアは、ASEAN における民主化の優等生となっている。インドネシアでは、憲法裁判所が中立的な判決を下し、選挙政治の定着を助けたと評される。何故このような違いが生じたのか、両国の憲法裁判所の制度設計の相違点を検証することにより、民主化における司法の政治的役割や問題点について新たな視座を提供することを目的とする。

本研究を通して期待される成果は、両国における①憲法裁判所設立の政治的背景、②憲法裁判所の制度的独立性と判決の政治性との関係、③政治アクターと司法関係者との関係などについての解明である。更に、両国の間の相違点の分析から、民主化における司法の役割や問題点について深く理解するための基盤を構築する。

近年は、新興民主主義国諸国において司法の役割が注目を集めるようになってきたが、学術的な研究は依然として乏しい状況である。よって本研究は、東南アジアに限らず、民主化研究全体に対して大いに貢献することができると予想される。

  
  

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