「ここはいったいどういうところだろう」「人びとはどうやって暮らしているのだろう」「社会はどのように成り立っているのだろう」……。こうした疑問から始まるような海外学術調査では、現地(フィールド)の様子をよく観察することが不可欠です。フィールドで観察した事実はメモや写真、映像などさまざまな方法で記録しますが、そのひとつがフィールドノートです。研究者は自分の関心に応じて自分にわかりやすいように多種多様なフィールドノートを作成するので、その内容は一般に他人にはわかりにくいことが多く、公開することも前提とされていません。一方で、そこに記録されているのはひとりの研究者が自分の目を通して、可能な限り主観を排して記した客観的事実であり、その時、その場所での状況を知るには実に有用な情報を含んでいることがあります。
フィールドノートアーカイブ
このため、またデジタル化の進展に伴い、フィールドノートを公開するケースも増えてきました。ただ、現状では手書きのノートをそのまま並べてデータベースとしていることが多く、利用者にとって扱いやすいものとなっているかは疑問でした。
専門家ではないけれどある地域や時期に関心をもつ人がアクセスしやすく、直感的に操作でき、自身の関心のありかを探るツールとなりうるデータベースとはどのようなものか。この観点から作成したのがフィールドノートアーカイブです。文字はテキストデータ化し図や写真と連動させて地図上に配置し、「コーヒー」「泥炭」などの項目ごとの検索が可能、さらに将来的には複数の研究者の記録を比較検討することも想定したデータベースとして設計しています。広く関心をもつ人に利用していただけることを願っています。
柳澤雅之(京都大学東南アジア地域研究研究所)
共同研究者:
山田太造(東京大学史料編纂所)
高田百合奈(首都大学東京大学院システムデザイン研究科)
動画で紹介したデータベース
フィールドノートアーカイブ: http://fieldnote.archiving.jp/
もう少し深く知りたい方への文献紹介
- (1) 柳澤雅之・高田百合奈・山田太造「地域情報学の読み解き:発見のツールとしての時空間表示とテキスト分析」『地域研究』第16巻第2号、昭和堂、2016年、267-291頁。(出版社のページ)
⇒ テキスト分析と組み合わせてフィールドデータベースを使った研究の有効性について書いています。 - (2) 柳澤雅之(代表執筆者、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・東南アジア研究所編)『京大式フィールドワーク入門』NTT出版、2006年。(出版社のページ)
⇒ フィールドワークの初歩はわかっていて、経験もあり、これから論文を書こうという人向けのフィールドワーク方法論について書いています。 - (3) 高田百合奈・渡邉英徳・柳澤雅之・山田太造「位置情報とトピックモデルに基づくフィールドノートのビジュアライズ手法」『じんもんこん 2014 論文集』3 号、2014年、57-62頁。(Web公開)
⇒ フィールドノートの記述を、テキストの分析結果をもとに、デジタルマップ上に色別に可視化する方法について書いています。 - (4) 山田太造「フィールドノートに記述された場面を特徴付ける:語彙による知識処理」『情報知識学会誌』第 25 巻 4 号、2015年、315-324頁。(Web公開)
⇒ フィールドノートの記述を機械的に処理していくための手法、特にデータ構造化、テキスト分析、および分析結果について記しています。