cseas nl75 特集2 オンライン動画プログラム「地域研究への招待」第1期公開

インドネシアの大規模火災、その問題解決に挑む

東南アジアのシンガポール、マレーシア、そしてインドネシアでは毎年のように深刻な煙害が発生しています。その原因は、スマトラ島やカリマンタン島に広がる熱帯泥炭地でオイルパームやアカシアなどのプランテーション開発が急速に進んでいるためです。プランテーション開発が進むと泥炭地が乾燥して大規模な火災が発生し、煙害を引き起こしているのです。火災は地球温暖化の原因とも言われる温室効果ガスを排出しており、深刻な地球環境問題になっています。だからこそ、私たちは自然科学の研究を武器としながら、地域社会の人々と一緒になって問題解決を目指しています。

2014年2月と2015年8月の再湿地化植林地の様子

 泥炭地とは、湿地環境で未分解の植物遺体などが数百年にわたって堆積したものです。日本では北海道の釧路湿原が有名です。熱帯に存在する泥炭地としては、インドネシアに最も広く分布しています。スマトラ島にあるリアウ州のおよそ半分に当たる400万ヘクタールが泥炭地だと推定されています。九州の面積(360万ヘクタール)よりも広い泥炭地が広がっていることになります。この泥炭地は湿地なため生活には不向きな空間で開発の手が及んでいませんでした。しかし1970年代以降、重機を利用したプランテーション開発が可能となりました。開発のために排水すると泥炭地は乾燥・分解するので膨大な炭素が排出され、地球温暖化の原因にもなっています。さらに近年、泥炭地開発が加速度的に進み、乾季に入ると毎年のように大規模な火災が発生しています。この火災による煙害は「ヘイズ」と呼ばれ、その煙は一酸化炭素、二酸化硫黄、二酸化窒素、PM2.5などの有害物質を含んでおり、これらを吸い込むことで、健康を害する人が急増しています。

2014年2月と2015年8月の再湿地化植林地の様子

 泥炭地の火災が厄介なのは、乾燥した泥炭地は大変燃えやすいだけでなく、地中深くまで火が入るため消火が困難だからです。そこで私たちは、2012年から、地域社会の人々と話し合いながら、泥炭地の再湿地化を進め、湿地でも生育できる在来種植林によって生態環境の保全を図る可能性を探っています。その場所は、リアウ州のタンジュンルバン村です。この村でも火災後に放棄された泥炭地が広がっていました。村人と一緒にそのうちの5ヘクタールを再湿地化して、植林の試験区としました。そして、堰の建設や水位計測、在来種の植栽と成長測定などを継続して行ってきました。再湿地化した泥炭地には、排水が必要なオイルパームやアカシアではなく、湿地でも生育が可能な在来種のビンタンゴール、ラミン、メランティを植栽しています。堰建設後、地下水位は地表面からマイナス40センチまで上昇しました。このマイナス40センチという数値は、インドネシア政府が2014年に施行した法令で定めた基準値、泥炭地の乾燥化を防ぐ地下水位の基準値ですから、わたしたちの試みは将来的にインドネシア泥炭再生にとって重要な意味を持つといえます。

 

もう少し深く知りたい方への文献紹介