cseas nl75 新任スタッフ紹介

町北 朋洋
MACHIKITA Tomohiro

グローバル生存基盤研究部門・准教授
博士(経済学、京都大学)
専門分野は労働経済学

 一橋大学経済研究所とアジア経済研究所(アジ研)を経て、2019年6月に着任しました。これまで一貫して、経済活動の地理的な不均一さに関心をもって労働経済研究を行っています。具体的にはタイの大都市の自然淘汰機能を考えた博士論文から出発し、今は経済のグローバル化と関係づけながら、外国人労働の導入や雇用の非正規化といった過去30年間の日本の労働市場の変化を研究中です。また制度の役割にも関心を広げ、失業保険制度の再就職効果を測定したり、エチオピアの職業訓練行政に入り込んで学校から職場への移行を研究したり、東南アジア洋上の不法船舶労働も研究しています。

 もう一つの柱は産業発展論の研究です。私はアジ研入所直後に東南アジア大の国際比較プロジェクトを組織する機会に恵まれ、生産網への関心が劇的に広がりました。きめ細かい取引データを長期間収集して東南アジア企業の異質性や集積形成を測定しようという野心的な国際共同研究です。さらにインドネシアとベトナムの二輪車産業に焦点を絞った研究も行っています。

 上の二つの柱を立てることで、国際分業の重要な一角を担う東・東南アジアの産業高度化の実践経験はどういった教訓を他国に与え、外国と日本の国際的な相互依存関係の進展は、国内雇用にどれほどの変化をもたらすかという重要な疑問を解明できると考えています。二つの柱に関連するのですが、20世紀初頭の産業革命期の日本に注目し、開国以降の工場成長や新産業勃興を説明する開発経済史的研究も行っています。

 この何年か、交通事故に強い関心をもっており、まずは人口に占める交通事故死亡者比率が高いタイに注目し、生産網の根幹にあるトラック運送業に入り込んで交通事故の情報を含む調査を行いました。組織経済学という先端分野の視点を使い、生産性と安全性のトレードオフを緩和する雇用契約や経営慣行のあり方を考えています。今後インドネシアと比較して研究を深めます。

 私は関心がひたすら横に広がっており、特定の主題に一意専心している方々と比べると恥ずかしくもあります。ただ、多くの共同研究者に恵まれて様々な主題に取り組んだことで、専門の殻を「ぶっ壊す」チャレンジ精神は人との交流を通じて育つとも確信しています。また、「自分が他の同僚の砥石にどうすればなれるのか?」(政治学者・牧原出)という一文が好きで、CSEASでも多様な同僚の仕事を楽しみたいです。互いが大いに関わり合う場所は多彩な至宝たちをさらに輝かせることでしょう。