グローバル生存基盤部門・日本学術振興会特別研究員PD
博士(農学、東京大学)
専門は農業生態、中米地域研究
私はこれまで中米、主にパナマの農村で、コーヒーのアグロフォレストリーと焼畑を軸とした生業に関して調査を続けてきました。研究を始めた当初の問題意識は、熱帯林の保全に貢献する森林利用とは何かということで、森林が調査の中心にありました。コーヒー・アグロフォレストリーは庇蔭樹と呼ばれる高木の下でコーヒーを栽培する農法です。パナマで出会った、二次林の中にコーヒーが植えられてほとんど藪のように見える統一感のないコーヒー畑の姿に魅了されました。
コーヒー栽培地の植生や人々の管理と利用を調査するなかで、次第にそこにある森林がコーヒーだけで形作られたのではなく、人々の幅広い生業を反映していることがわかってきました。人々は焼畑で自給用の作物である陸稲やキャッサバ、トウモロコシなどを栽培していますが、土地配分や資源の獲得など、焼畑とコーヒーのバランスを時々のニーズに合わせて変化させていたのです。また、調査を開始したのは食糧価格が高騰し始めている時期で、村と都市部を行き来する生業戦略が増加し、農業への労働投資が変化していました。
現在は、人々が現在のアグロフォレストリーを含む村の景観をどのように形作ってきたのか、都市部とのつながりや村の歴史といった、空間や時間的な広がりに目を向け理解することを目指しています。
コーヒーのような換金作物の生産者にとって、自給作物の栽培は重要なリスクヘッジとなります。そして焼畑などの在来農業には、その地で生きる知恵や文化が埋め込まれています。これらの効果的な組み合わせを、都市とのつながりがますます強くなっている現代的な文脈で実践することが、自然環境を活かした持続的な地域づくりにつながるのではと考えています。
2021年度からは、オランダのワーヘニンゲン大学にも研究員として在籍し、コーヒー・アグロフォレストリーをめぐる持続的な地域のあり方を検討していく予定です。特に2020年度はCOVID-19の影響で様々な調査の制約がありましたが、その一方で日本の小規模農家の方々をはじめ、多くの新たな出会いを得ました。それにより、地域で食糧を生産し、地域で消費するという循環をより強く意識することになりました。今後も、コーヒーというグローバルな作物と地域内の循環とを、うまく組み合わせた生業と森林利用の方法を探っていきたいです。