cseas nl75 新任スタッフ紹介

山田千佳
YAMADA Chika

環境共生研究部門・特定研究員
博士(保健学、神戸大学)
専門分野は公衆衛生、国際精神保健

小学生の頃、日本で初めて国境なき医師団に参加された方の話を伺う機会がありました。その時に抱いた、頭の中の常識が覆される鮮烈な感覚、戦争下の異国の兵士も感じることは私と同じなんだという共感、そして、生まれ育った環境によって健康が規定されるなんておかしくないかという変な正義感が、現在の国際保健への関心に繋がっています。手に職をつけろという周囲の言葉に従って入学した看護学専攻の授業の中で、最も面白く感じたのが公衆衛生学でした。あるコミュニティの健康を向上するにはどうしたら良いのか?一人ひとりを看る虫の目と全体を俯瞰する鳥の目を行き来しながら、環境や制度に変化を起こし、集団の健康を支援するというダイナミックさに惹かれました。

私が研究を通して貢献したいと願っているのは、人々の健康について「生態学的な理解に基づいて支援すること」と「社会的な不公正をなくすこと」です。初めての調査フィールドは京都府下の1つの自治体でした。生活習慣病についての健診データ、家庭訪問による生活状況調査等の結果を、地区間で比較分析しました。その中で、生まれ育った環境や経済状況によって健康が損なわれたり、反対に、健康を損なったことで、その人が本来享受できたはずの生活環境が奪われてしまうことを、実感を伴って学びました。そして、保健医療だけではどうにもならない課題への解決方法を探りたいと思うようになりました。

博士課程は国際保健に進み、それ以降フィリピンやインドネシアでこころの健康問題をもつ人たちに関する調査をしています。私自身が精神疾患に悩んだことと、日本の地域精神保健の現場に従事した経験から、他の国、特に日本よりも精神保健医療資源が少ないと言われる国で、こころの健康問題をもつ人たちはどんな暮らしをしているのだろうと思ったからです。国際保健で、生態学的視座のさらなる重要性を感じる中で、フィリピンでは、まさに知りたかった生活環境にも介入する包括的なアプローチに出会い、感動することがありました。また、日本や東南アジアに住むこころの健康問題をもつ多くの人々に出会う中で、社会的公正の実現には、当事者の力が欠かせないことも実感しています。目下取り組んでいるのは、世界で効果があると言われている薬物依存症に対する心理療法のインドネシア版の開発と評価です。CSEASの皆さまから学ばせていただき、現地の多角的・包括的な理解を深め、現状に即した支援につなげたいと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。