cseas nl75 特集 渡辺一生インタビュー

「地域研究のデジタルトランスフォーメーション」と、
アカデミズムと社会との架橋をめざして

渡辺一生(京都大学東南アジア地域研究研究所)

ドローンを使った高精度かつ高頻度な地域環境情報の収集技術の確立をめざす「フィールドロボティクスプロジェクト」の統括責任者として地域研究の新たな手法を提案してきた渡辺一生(わたなべ・かずお)連携准教授。2020年10月からは、ドローンの販売やソリューションビジネスを手がけるWorldLink&Company社の技術統合化室室長を兼務し、先進技術を用いた地域研究のアップデートと学術成果の社会実装に取り組む。新たな立場から構想する地域研究の未来と社会連携の可能性とは──

話し手:渡辺一生(京都大学東南アジア地域研究研究所)
聞き手:町北朋洋(京都大学東南アジア地域研究研究所), 甲山治(京都大学東南アジア地域研究研究所),
帯谷知可(京都大学東南アジア地域研究研究所)
構成・協力:英明企画編集

 

──9月29日に行われた、ドローンで琵琶湖を横断する長距離輸送実験のニュースを見ました。そのとき運んだのがバウムクーヘンというところがおしゃれですね。

渡辺 あの実験では、彦根市松原町の湖岸から高島市安曇川町まで560グラムのバウムクーヘンを運んで、離島への配送や河川測量などにドローンが使えないかを探りました。その離陸場所としてお借りしたのが滋賀を拠点にパンや洋菓子を製造・販売しているクラブハリエさんの敷地だったので、そこの製品であるバウムクーヘンを運ぶことにしたんです。

──片道16キロメートルでした。かなりの長距離で、琵琶湖を迂回したら自動車で1時間20分ぐらいかかるところを16分で横断した。相当なインパクトがありました。

渡辺 小型の無人機としては、2020年12月時点では日本最長の距離です。

根幹にあるドンデーン村での調査──「地域全体を俯瞰したい」という願望

──渡辺さんが東南アジア地域研究の道に進むことになったきっかけと、ドローンを活用した地域研究に取り組むようになった経緯について教えてください。

渡辺一生(京都大学東南アジア地域研究研究所)

渡辺 私の研究の根幹、ベースにあるのが、タイのドンデーン村での調査です。学部生のころは環境情報学部に在籍して衛星画像や地理情報の分析、情報処理を学びながら持続可能な発展について考えていて、修士課程で信州大学農学部の星川和俊先生の研究室に入りました。星川先生は情報処理やデータベースを活用した水文学が専門の方で、1980年代のドンデーン村の調査に自然科学班として参加していました。その関係で、修士課程に入ってすぐの2002年に、星川先生とともにドンデーン村の調査に参加する機会を得ました。

──そうすると、ドンデーン村にはもう20年近く関わっていることになりますか。

渡辺 そうなりますね。そのドンデーン村の調査で私がもっとも強いインパクトを受けたのが、村中のすべての田圃が描かれた地図を作って、所有者や耕作者などの社会科学的な情報と自然科学的な情報とをマッチングさせてそこに落とし込んで、それをもとにさまざまな分野の研究者が情報を分析していくという調査手法でした。ドンデーン村の調査では、1980年代からこうした方法を先駆的に始めていたんです。
 2002年の調査では、村の全域を撮影した衛星画像をプリントアウトして、自分たちで実際に地域を歩きながら、780ヘクタールほどある土地について悉皆調査して、区画の情報をその衛星画像を元にした地図に手書きしていく。そしてその位置情報が入った空間データをコンピュータに登録して地理情報システム(GIS)として整備して、分析や判断に使えるデータベースを作っていました。私もその作業を手伝っていたのですが、そのとき「空からドンデーン村の風景が見られたらどれほど楽だろう」と考えていたのです。
 そのためのチャレンジの一つとして、2006年には、ヘリウムを入れて浮かべる気球を使って調査したこともあります。気象観測用のラジオゾンデのような大きな風船にカメラを付けて飛ばして、土地利用の状況などを撮影しました。同じころには、福井捷朗さん(京都大学名誉教授)も凧にカメラを付けて、灌漑堰を上空から撮影して研究されていました。
 もともと地域研究者のなかでは、「地域全体を俯瞰したい」という思いが強くあったように思います。自分の足で歩き回って「虫の眼」で観察することと併せて、高台から全体を俯瞰して村の様子をつかむことには、さまざまな方法で取り組んでいました。高谷好一さん(京都大学名誉教授)もそういう方法をとっていましたね。私たちがドンデーンでしていたのも、そうして上と下の両側から地域を捉えて地図を作り、そこに人びとの活動をデータとして落とし込む作業でした。
 そうして試行錯誤しているうちに時代がくだって2010年ごろになると、自分たちで飛ばせる、いわゆる現在のドローンのようなものが登場したわけです。

──気球とドローンとでは、使い勝手や得られるデータなど、かなり違うものですか。

渡辺 まったく違います。気球には紐がついていて、村の中を引っ張って歩きながら撮影するんですよ。電線があったら通れませんから、いったん下ろして、また上げる。

──かなりローテクですね。

渡辺 たいへんです。田圃の中を胸まで水に浸かりながらバシャバシャと進んだり。しかも、いざ気球を下ろしてみたら撮影できていないとか、画像がぶれていたということも頻繁にありました。うまくいけば風景写真としては見られるものが撮れて鳥瞰図ぐらいは作れますが、計測はとても無理で、地図なんて作れたものではありませんでした。

──それを可能にしたドローンの登場は、まさに画期的だったわけですね。

ドローン技術の発展と社会実装を実現するうえでの課題

──渡辺さんは、そもそもドローンとはどのようにして出合ったのですか。

渡辺 年に一度ある、地理情報関係の展示会のデモンストレーションで知りました。室内で安定して飛行する様子に感心しましたが、その機体は軍事用から転用されたもので、一機で千何百万円。それが2010年ぐらいのことでした。
 その後2014年になると、中国のDJIという、現在では世界シェアの約8割を占める会社からPhantom 2というドローンが出てきました。これは小型で飛行が安定していて、緯度、経度、高度、飛行速度を決めて経路をインプットしておくと、そのとおりに自動航行して撮影してくれる画期的なものでした。そしてそれと同時に、写真を何枚も重ね合わせて撮ると1枚の写真に合成してくれて、しかも三次元データまで作ってくれるソフトウェアも出てきたんですよ。

──位置が少しずつ異なるたくさんの画像から立体図を作るわけですね。

渡辺 そうです。かつてはセスナ機を飛ばして撮った写真を、人間が立体視鏡という虫眼鏡のようなもので見ながら三次元にして地形図などを作っていました。それが2014年ごろになると、何百枚というデジタル画像を入れると1枚の立体図にしてくれる、SFM(Structure from Motion)という技術が急速に発展したのです。
 ですから、ハードウェアがコンパクトで安定したものになっていきつつ、小さく高性能になったカメラが載って、しかもGPSの技術によって、緯度、経度、高度、速度を入力したらそのとおりに飛ぶドローンが出てきた。同時に高スペックで安価なパソコンも手に入るようになって、すぐれた画像加工のソフトも出始めた。それが2014年ごろのことです。
 ちょうどそのころ星川先生が「おもしろそうだから」とドローンを購入して試していました。私はすでに大学院を卒業していましたが、興味があったので遊びに行ったときに操縦させてもらって、「これは調査に使える」と確信したんです。

──気球を使った経験があるからこそ、ドローンのご利益がよくわかりますね。

渡辺 ドローンは、費用の面でも気球やセスナ機とはまったく違います。セスナを飛ばせば1回数百万円で、広範囲の地形図を作ろうとしたらトータルで1,000万円以上かかっていましたが、私たちがいま使っているドローンは一機で20万円から30万円ですから。

──ドローンの動力には何が使われているのですか。

渡辺 現在はバッテリー式の電池が主です。みなさんがよく目にする、4枚もしくは6枚の羽根が回転して飛ぶタイプのドローンは、航続時間は最長で30分か35分ぐらいです。自重を上げるために大きなエネルギーを使うので、バッテリーのもちはそれほどよくない。

──いま渡辺さんたちがいま調査で使っているドローンも航続時間が30~35分のものですか。

渡辺 ドンデーンやインドネシアのリアウで飛ばしているドローンはそうですね。ところが、海外で使っている機体をそのまま日本で使うことは、ほぼできません。日本独自の電波に関する法律など、航空機に関わるもの以外の法律による規制が、かなり厳しいのです。

──それをすべて乗り越えた結果が、先日のバウムクーヘンを運んだ実験というわけですね。

渡辺 あれはたいへんでした。さまざまな許可を取るだけで3か月ほどかかっています。

──社会実装をめざすうえでも、規制をどうクリアするかが重要なポイントになりますね。

渡辺 そうです。一般に使えるようにするには、実験レベルでしていることでは事足りません。バウムクーヘンを運んだ実験では、実験中にドローンの位置を確認するために、LTEという携帯電話用の電波を送受信する機体を飛ばしました。携帯電話を積んで飛んでいるようなものです。通信が途切れたら困りますから、日本でもっとも安定してつながる電波を使おうとするとLTEになるのですが、そもそもLTEは電波法で「陸上用」と定義されているので、現在の日本ではジャンプして通話するのも法律違反なんですよ。

──それをドローンに載せて飛ばすなどということは、通常はできないわけですね。

渡辺 そのためには実用化試験局を開局する必要があって、総務省にその手続きをするのに3か月ほどかかりました。これでは実際の業務などできませんから、いかに実用レベルまで持っていくか、クリアすべき課題はたくさんあるわけです。

学術界と社会との橋渡し──経験の蓄積と兼務の立場を活かす

──10月から所属しておられる企業では、どのような業務をされているのですか。

渡辺 メインは、私がずっと専門としてきた地図づくりに関わる業務です。地図や地形図を作るには、先ほど言ったようにドローンを飛ばして連続した写真を撮って、1枚の写真に合成したり、三次元データを得たりします。しかし、その方法が特殊で得られるデータが求められるニーズに合わないものでは、社会実装には至りません。お客さんがどんな業務にどう使いたいのかという用途に合わせて、機体や分析機材、データの取得と処理の方法などをトータルでパッケージングする必要があります。ニーズはクライアントによって異なるので、要望に合わせて実際の現場で使えるものに仕立てる作業をしています。

──渡辺さんが直接クライアントの方がたとお話しされることもあるのですか。

渡辺 それもします。企業に対するアドバイスは、これまでもしていました。たとえば、ドローンを使った測量も公共工事に使えるようになりましたが、その際には、位置精度について国土交通省が定めた決まりがあって、それを担保するための運用基準が設けられています。しかし、その精度を満たすためのドローンやデバイス、データ取得の方法の組み合わせについては、これまできちんと検討されておらず、実際にドローンを測量に活用するには生産性の面で問題がありました。そこで株式会社大林組と協働で実験を行って、写真の撮影頻度を下げても測量精度を確保できることを実証して、生産性の向上につながる基準改定を実現しました。

──渡辺さんたちの仕事によって、社会インフラが一つ整備されたということですね。

渡辺 いまドローンには注目が集まっていますが、基準づくりやその改定などはほとんどされていません。しかし、実証実験をして基準などをきちんと定めていかないと、どんなものなら満足されるかがわからないので、普及せずに実験レベルで終わってしまいます。
 他には、災害による被害の調査の手伝いもしています。あるコンサルタント会社が、台風によって裏山が被災したお寺から、ドローンを飛ばして被害調査をしてほしいという依頼を受けました。そこで、「このような自動航行のルートを設定して飛行させると、こんなデータがとれると思います」というアドバイスをして、一緒に飛ばしたりもしましたね。
 あとは農業関係や、橋やダムなどのインフラ点検、工場のプラントの点検、輸送などがメインです。そうしたニーズに合う機体や飛ばし方、データの取り方などを教えたり、パッケージングを主に担当しています。

──研究者と実務家の兼務という現在の立場で、新たにどんなことに取り組みたいですか。

渡辺 縁あって技術開発の責任者として企業に入ったことで、これまで研究分野で取り組んできたことを社会実装しやすい立場になったと考えています。これは研究者の立場ではなかなか難しいことです。たとえば科研費を申請しても4月に不採択という結果が出たら、再挑戦できるのは早くてそこから1年後です。現在のデジタル・テクノロジーの進展状況から言うと、1年も経ったらもう二世代ぐらい変わってしまうんですね。
 現在テクノロジー開発の進展はかなり速くなっていて、大学で行われているサイエンス・テクノロジーと、一般企業、Googleなどがしていることとの違いが、だんだん曖昧になってきています。そのタイミングで企業に入りましたから、この学術的な部分と企業的な部分とを架橋できるように、兼務という立場をうまく活かしたいと思っています。
 研究畑にいると社会の要望がつかみづらいこともありますが、現在の立場なら、企業や社会のニーズを直接知ることができます。そして世の中にはそのニーズに応えるたくさんの技術がありますが、それを使いこなすための知識やノウハウについては学術界に厖大な蓄積があって、研究分野の人のほうがよく知っている。研究畑の人たちには、企業間だけで話していては出てこないようなアイデアもあります。また、根本的な考え方や、「なぜそうなるのか」という理論についても企業の人たちは知りたいと考えていますが、それについては企業体としては厚みがなく弱い部分です。これまで企業や社会とアカデミズムとの接点は多くありませんでしたから、そこのマッチングとブリッジングをスピーディーに進めて、多様な分野の研究成果をより早く実社会に応用していきたいですね。

ドローンが拓く地域研究の新地平①──地理情報の「見える化」と共有

──従来の地域研究を補う方法を開拓されてきた渡辺さんから見て、ドローンを使った地域研究は今後どう進展していって、どんな可能性があると考えていますか。

渡辺 地域研究とドローンというのは、相性が良い部分がたくさんあります。たとえば、地域研究にとって重要な地理情報について、ドローンを使えば、自分たちの好きなときに、好きな場所の地図を何度でも作ることができる。そうしてできた地図があれば、たとえば10年後にもう1回同じ場所に行ったときに同じように地図を作れば、地域がどのように変化したかも簡単に追うことができます。
 他にも、たとえばインドネシアの泥炭地のように、火事などの問題が起こっていて実際に足を踏み入れることが難しい場所についても、ドローンは1回プログラミングしたら、毎日好きなときに同じ場所を自動で飛んでくれて、人間にはとれないようなデータを集めてくれる。理系的なデータももちろんとれますし、文系の人たちもその地図を使うことで地域理解に役立つので、さまざまな応用が多分野で可能だと思います。
 地域研究の「地域」は一様ではなく、広さもさまざまではありますが、地域研究者が扱うフィールドの範囲は、ほぼドローンの航行範囲に収まるんです。その範囲について細かくデータをとることは衛星ではできませんし、見たい地域に雲がかかっていたらまったく見えない。ドローンはその限界を突破したツールです。この地図化の部分こそがこれまでずっと技術的に精緻化されてきたところで、今後も伸びてくると思います。
 もう一つ、ドローンには人間の目では見えないもの、たとえば赤外線などを捉えるセンサーを登載できます。するとこれまで見えなかった事象についてのデータが集められて、地域の人や行政、研究者などが同じ情報を共有できる。これもすごく有利なところですね。

──新型コロナウイルスの感染が収まったら、海外での仕事もありそうですね。

渡辺 そうですね。現在でも、たとえば甲山治さんと一緒に調査しているインドネシアの泥炭地では、住友林業株式会社との共同で、温室効果ガスを出さずに、また泥炭の火災を抑えつつ植林を行って持続的な林業につなげる取り組みもしています。温室効果ガス排出の抑制と火災防止には土地を乾燥させないことが大切で、それには水位のコントロールが重要になるので、地形データをとって、地下水がどこにあるかサーモグラフィ・カメラを使って推定するなどの事業を一緒にしています。
 ドローンを使えば、地中で火事が起こっている可能性も検知できますからね。

──泥炭の中、地下で火災が起こることもあるんですね。

渡辺 ドローンの最大の強みは、人間が行けない場所に行き、私たちには見えないものを捉えてくれることです。その力を活かして、見えなかった情報を「見える化」する。この能力がもっとも社会的ニーズが多く、地域研究のみならず多様な分野に使えると思います。

ドローンが拓く地域研究の新地平②──バーチャル・フィールドの可能性

──農学分野や地球物理、建築などの分野ではドローンをうまく使えそうだと思いますが、渡辺さんのなかで、もっと突飛な使い方、「もしかしたら……」みたいなアイデアはないですか。

渡辺 これはドローンだけでは不可能ですが、たとえば、さまざまなセンシング技術を使って、一つの村や熱帯林などのフィールドをバーチャル空間として作りあげることが考えられます。ドローン以外にも多様なセンシング技術が進展していますから、現実のフィールドにセンサーをたくさん設置して、たとえば田圃や土壌の水分など、実際のフィールドのデータがバーチャルな三次元空間にすべて載っていて、遠くにいてもVR空間に入ればリアルタイムに取得できるようにする。そうすると長期にわたってセンシング・データが残せるし、過去との比較もできる。そのバーチャルなプラットフォームを、文系理系を問わずみんながそれぞれの方法で使う。これはいずれ実現可能かもしれませんね。

──アフター・コロナの時代にふさわしいフィールドワークの新たなかたちができそうですね。

渡辺 そうなると、「データをどうやって得るか」とは違うセンスが求められます。「いかに現実を反映(複製)できるデータを選んで取得できるか」が問われる。それが空飛ぶものになるのか、地上を走行して刻々の情報が得られるようなものになるかは別として、センシング技術はさまざまなかたちで伸びていくと思うので、そういう研究はありえると思います。

──固定カメラやセンサーをドローンなどの動くセンサーがサポートするイメージですね。

渡辺 実現すれば、そのフィールドはおそらく研究者のためだけのものではなくなります。そういう三次元データがあれば、たとえば村から都会に出た人たちが、都会にいながらにして故郷に帰った気にもなれる。新たな地域への貢献にもつながるかもしれません。

──みんなの故郷を、どこにいても目の前に再現することができるわけですね。

渡辺 地域の人たちとのより密接な関係も築けるでしょう。近年ではドンデーンでも、みんなスマホを使っていて、LINEなどを通じてリアルタイムにテレビ電話のようにして話すのが当たり前になっています。速水洋子さん(京都大学東南アジア地域研究研究所)と一緒に行った北タイの田舎の村でも、バンコクにいる親戚や家族と互いに顔を見ながら通話していました。どこでもテクノロジーが入り込んでいますから、その応用としてありえそうです。

──ドローンは山岳救助隊でも導入してほしいですね。登山時にルートの安全性を確認したり、二次遭難を避けつつ遭難者の位置を調べたりもできそうです。とくに冬山で役立つと思います。

渡辺 北海道の上士幌町で、2016年度からJapan Innovation Challengeというロボットを使った山岳救助のコンペが行われていて、私も毎年参加しています。広い山の中に、電気で発熱するベストを着けて、音声を出して手を振っているマネキンが1体置かれています。サーモグラフィ・カメラを付けたドローンを使ってその位置を探して、そのマネキンの近くの決められた範囲内に救援物資を置いて、また戻ってくるというコンペです。2020年は新型コロナウイルスの蔓延で大会自体はなかったのですが、上士幌町の消防署と連携した実証実験が行われました。今後は災害対応でドローンが活用される可能性は大いにあります。とくに、ヘリコプターも人も動けない夜にドローンで捜索することは考えられますね。

──ニーズも多いし、社会実装のあり方もさまざまに考えられるということですね。

おまけ

──最後に一つ教えてください。渡辺さんのフィールドでのマストギア、お供はなんですか。

渡辺 一つ挙げるとすれば、GPS機能付きの時計(写真参照。本人提供)ですね。フィールドではそれをずっと使っていました。自分の行動がすべて記録できて、しかも腕に着ければ忘れることもないので、かなり重宝して、活躍しました。
 もともとガジェット好きで、2005年ごろに、ドンデーンでPHSを使ってインターネットを始めたのも私です。他の先生たちは「とうとうドンデーンでもメールの送受信ができるようになってしまった」と嘆いておられました。

── 「フィールドに出たらメール・チェックをしなくていいから助かる」という時代がありましたが、それに幕を引いたのが渡辺さんだったんですね。

渡辺 私にとっては、「いやいや、ネットにつながらないなんて」という感じでした。(笑) ですから振り返ってみると、かなり以前から、ローテクな地域研究をデジタル化する試みを続けてきました。腕時計型GPSの利用もそうですね。他の人は関心を持っていませんでしたから。

──地域研究のデジタルトランスフォーメーションの嚆矢ですね。

渡辺 たしかにそうですね。これまでずっと「地域研究DX」に挑戦してきたと言ってもいいかもしれません。

──これからは研究者と企業の開発責任者の兼務という新たな立場で、その経験と蓄積がさらに活かせそうですね。ますますのご活躍を楽しみにしています。

2020年10月22日(木)