cseas nl75 特集3 

「ブックトーク・オン・アジア」

設楽 成実

東南アジア地域研究研究所では、2021年1月にアジアに関する新刊書籍を紹介する音声プログラム「ブックトーク・オン・アジア」の配信を開始した。このプログラムは、毎回ある書籍の著者をゲストとして招き、執筆の背景や書籍の内容について話を伺うもので、毎月2回、第2、第4水曜日に配信されている。研究者コミュニティやアジアに関心のある人たちを主なリスナー層と想定し、新刊本の紹介にとどまらず、堅くみられがちな研究者の実際の人柄を知ってもらうことも目的としている。聞き手は、弊所出版委員会を担当する准教授の中西嘉宏が務め、これまで32名のゲストを招き31冊の書籍を紹介してきた(2022年3月現在)。

本プログラムの制作過程を簡単に紹介しておこう。まず、制作チームで取り上げる書籍を検討し、著者に出演を打診する。出演を承諾いただいた著者には、収録の3日程度前にプログラムの概要と質問内容をまとめ送付する。収録は基本的にZoomで行い、編集室のスタッフと編集担当者が立ち合い、音声の確認や録音作業を行う。収録後は、著者から特段の要望がある場合などを除き内容の編集は行わず、音のバランスの調整や不要な間の削除を行い、オープニングとエンディングをつけて仕上げる。公開日に先立ち、音声ファイルおよび書誌情報をSoundCloudとYouTubeにアップロードし、著者と出版社に連絡を行う。公開後は、弊所および編集室のウェブサイトに新着情報を上げ、SNS(TwitterとInstagram)で発信を行う。なお、編集作業は連携研究員に委託している。

1年間配信してみた感想としては、 継続するうえで、動画に比べ収録の手間がかからないという点が大きいと感じている。これにはコロナ禍によりZoomの利用が普及したことがプラスに働いている。一方で、美術を扱った書籍やフィールドワークにまつわる話を紹介する際などに、図版や調査時の写真を見せることができない歯がゆさを感じることも少なくなく、動画のもつ強みを改めて感じてもいる。こうした音声のみの発信ゆえの短所もあるものの、研究成果の発信媒体としての音声プログラムの利用は欧米ではすでに一般化しており、日本でも今後さらに進んでいくものと思われる。かくいう私は、オールナイトニッポンやMBSヤングタウン、OBCブンブンリクエストといったラジオが大好きだった。ラジオの魅力は、MCとリスナーがいわば密室空間にいるようなもので、テレビとは違い両者の距離がぐっと縮まる点にあるとどこかで読んだ記憶がある。本音声プログラムも、普段は物理的に、時には心理的に遠い存在である研究者がぐっと身近に感じられることが醍醐味の一つであるに違いない。制作チームでは、100回の配信を目指し目下奮闘中である。ぜひ、一度お聴きいただき、この濃密な空間をお楽しみください。

 

■これまでの配信リスト

No.
Author
Title
1 倉沢愛子 『インドネシア大虐殺:二つのクーデターと史上最大級の惨劇』(中公新書、2020年)『楽園の島と忘れられたジェノサイド:バリに眠る狂気の記憶をめぐって』(千倉書房、2020年)
2 佐久間香子 『ボルネオ 森と人の関係誌』(春風社、2020年)
3 佐藤若菜 『衣装と生きる女性たち:ミャオ族の物質文化と母娘関係』(京都大学学術出版会、2020年)
4 水野広祐 『民主化と労使関係:インドネシアのムシャワラー労使紛争処理と行動主義の源流』(京都大学学術出版会、2020年)
5 谷口美代子 『平和構築を支援する:ミンダナオ紛争と和平への道』(名古屋大学出版会、2020年)
6 安藤和雄(編) 『東ヒマラヤ:都市なき豊かさの文明』(京都大学学術出版会、2020年)
7 細田尚美 『幸運を探すフィリピンの移民たち:冒険・犠牲・祝福の民族誌』(明石書店、2019年)
8 髙橋昭雄 『ミャンマーの体制転換と農村の社会経済史 1986-2019年』(東京大学出版会、2021年)
9 小林真樹 『食べ歩くインド(北・東編)』/『食べ歩くインド(南・西編)』 (旅行人、2020年)
10 下條尚志 『国家の「余白」: メコンデルタ 生き残りの社会史』(京都大学学術出版会、2021年)
11 澤田晃宏 『ルポ 技能実習生』(ちくま新書、 2020年) 前編
12 澤田晃宏 『ルポ 技能実習生』(ちくま新書、2020年) 後編
13 小西 鉄 『新興国のビジネスと政治:インドネシア バクリ・ファミリーの経済権力』(京都大学学術出版会、2021年)
14 貴志俊彦 『アジア太平洋戦争と収容所:重慶政権下の被収容者の証言と国際救済機関の記録から』(国際書院、2021年)
15 古澤拓郎 『ウェルビーイングを植える島:ソロモン諸島の「生態系ボーナス」』(京都大学学術出版会、2021年)
16 佐藤 創 『試される正義の秤:南アジアの開発と司法』(名古屋大学出版会、2020年)
17 横山 智 『納豆の食文化誌』(農文協、2021年)
18 松田ヒロ子 『沖縄の植民地的近代:台湾へ渡った人びとの帝国主義的キャリア』(世界思想社、2021年)
19 北澤直宏 『ベトナムのカオダイ教:新宗教と20世紀の政教関係』(風響社、2021年)
20 益満雄一郎 『香港危機の700日 全記録』(筑摩書房、2021年)
21 佐藤 仁 『開発協力のつくられ方:自立と依存の生態史』(東京大学出版会、2021年)
22 島村一平 『ヒップホップ・モンゴリア:韻がつむぐ人類学』(青土社、2021年)
23 古田元夫 『東南アジア史10講』(岩波書店、2021年)
24 佐藤 寛+アジアコンビニ研究会(編) 『コンビニからアジアを覗く』(日本評論社、2021年)
25 岩間一弘 『中国料理の世界史:美食のナショナリズムをこえて』(慶應義塾大学出版会、2021年)
26 吹原 豊 『移住労働者の日本語習得は進むのか:茨城県大洗町のインドネシア人コミュニティにおける調査から』(ひつじ書房、2021年)
27 古沢ゆりあ 『民族衣装を着た聖母:近現代フィリピンの美術、信仰、アイデンティティ』(清水弘文堂書房、2021年)
28 アンソニー・リード(著)
太田 淳・長田紀之(監訳)青山和佳;今村真央;蓮田隆志(訳)
『世界史のなかの東南アジア:歴史を変える交差路』【上/下】(名古屋大学出版会、2021年)前編
29 アンソニー・リード(著)
太田 淳・長田紀之(監訳)青山和佳;今村真央;蓮田隆志(訳)
『世界史のなかの東南アジア:歴史を変える交差路』【上/下】(名古屋大学出版会、2021年)後編
30 和田理寛;小島敬裕;大坪加奈子;増原善之;下條尚志;杉本良男 『東南アジア上座部仏教への招待』(2021年、風響社)前編
31 和田理寛;小島敬裕;大坪加奈子;増原善之;下條尚志;杉本良男 『東南アジア上座部仏教への招待』(2021年、風響社)後編
32 西 芳実 『夢みるインドネシア映画の挑戦』(2021年、英明企画編集)
33 佐々木貴文 『東シナ海 漁民たちの国境紛争』(2021年、KADOKAWA)
34 帯谷知可 『ヴェールのなかのモダニティ:ポスト社会主義国ウズベキスタンの経験』(東京大学出版会、2022年)

 

 

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