東南アジア地域研究研究所では、2021年1月にアジアに関する新刊書籍を紹介する音声プログラム「ブックトーク・オン・アジア」の配信を開始した。このプログラムは、毎回ある書籍の著者をゲストとして招き、執筆の背景や書籍の内容について話を伺うもので、毎月2回、第2、第4水曜日に配信されている。研究者コミュニティやアジアに関心のある人たちを主なリスナー層と想定し、新刊本の紹介にとどまらず、堅くみられがちな研究者の実際の人柄を知ってもらうことも目的としている。聞き手は、弊所出版委員会を担当する准教授の中西嘉宏が務め、これまで32名のゲストを招き31冊の書籍を紹介してきた(2022年3月現在)。
実は、弊所では本プログラムに先立ち「自著を語る」という動画プログラムを制作していた。これは、弊所刊行の地域研究叢書(日本語、英語)や所員執筆による新刊を紹介することを目的に、著者の語りを5~10分程度の動画としてまとめたものだった。1時間程度の動画撮影ののち、文字起こしを行ったうえで内容を編集し、インタビュー映像に著者から提供された現地調査の写真や書籍の図表などを挿入し、音楽やテロップをのせ完成させるという制作過程をとり、編集室と研究支援室のスタッフ、機関研究員がチームを組んで手弁当で制作していた。ただ、収録・編集作業にはどうしても時間がかかり、また、5~10分の動画では研究書の内容を十分に伝えきれないというもどかしさ、大幅な編集により著者の思いが誤って伝わってしまうのではないかという怖さも感じていた。そこで、少し方向転換を行い、音声プログラムとして著者にじっくり話を聞こうという趣旨で始まったのが、「ブックトーク・オン・アジア」である。
本プログラムの制作過程を簡単に紹介しておこう。まず、制作チームで取り上げる書籍を検討し、著者に出演を打診する。出演を承諾いただいた著者には、収録の3日程度前にプログラムの概要と質問内容をまとめ送付する。収録は基本的にZoomで行い、編集室のスタッフと編集担当者が立ち合い、音声の確認や録音作業を行う。収録後は、著者から特段の要望がある場合などを除き内容の編集は行わず、音のバランスの調整や不要な間の削除を行い、オープニングとエンディングをつけて仕上げる。公開日に先立ち、音声ファイルおよび書誌情報をSoundCloudとYouTubeにアップロードし、著者と出版社に連絡を行う。公開後は、弊所および編集室のウェブサイトに新着情報を上げ、SNS(TwitterとInstagram)で発信を行う。なお、編集作業は連携研究員に委託している。
1年間配信してみた感想としては、 継続するうえで、動画に比べ収録の手間がかからないという点が大きいと感じている。これにはコロナ禍によりZoomの利用が普及したことがプラスに働いている。一方で、美術を扱った書籍やフィールドワークにまつわる話を紹介する際などに、図版や調査時の写真を見せることができない歯がゆさを感じることも少なくなく、動画のもつ強みを改めて感じてもいる。こうした音声のみの発信ゆえの短所もあるものの、研究成果の発信媒体としての音声プログラムの利用は欧米ではすでに一般化しており、日本でも今後さらに進んでいくものと思われる。かくいう私は、オールナイトニッポンやMBSヤングタウン、OBCブンブンリクエストといったラジオが大好きだった。ラジオの魅力は、MCとリスナーがいわば密室空間にいるようなもので、テレビとは違い両者の距離がぐっと縮まる点にあるとどこかで読んだ記憶がある。本音声プログラムも、普段は物理的に、時には心理的に遠い存在である研究者がぐっと身近に感じられることが醍醐味の一つであるに違いない。制作チームでは、100回の配信を目指し目下奮闘中である。ぜひ、一度お聴きいただき、この濃密な空間をお楽しみください。
■これまでの配信リスト
ブックトーク・オン・アジア
- ・SoundCloud: https://soundcloud.com/user-153026370-46049678
- ・Youtube: https://www.youtube.com/playlist?list=PLYNr5XeQb9WIM8svoGgRYPkshslSO3iKW
- ・RSS: https://feeds.soundcloud.com/users/soundcloud:users:880946410/sounds.rss
- 企画・制作: 出版委員会、編集室 / 協力: 広報委員会