相関地域研究部門・特定研究員
博士(文化人類学、早稲田大学)
専門分野は文化遺産学
2021年1月付で海域アジア遺産調査プロジェクト Maritime Asia Heritage Surveyの特定研究員として着任しました。2018年に早稲田大学で博士号を取得し、その後数年間シンガポールに滞在しておりました。専門は文化遺産学で、遺産の概念が特定の集団においてどのようにして形づくられ、維持、継承されていくのか、というプロセスに興味があります。また、文化遺産を維持、継承するための具体的なアプローチの検討も重要な研究関心の一つです。
文化遺産を研究するにあたり、いくつかのターニングポイントがあったように思います。一つめは、青年海外協力隊の考古学隊員として中米エルサルバドル共和国に派遣されたことです。派遣先のカサブランカ遺跡公園とその周辺にはマヤ時代のピラミッドがいくつも存在し、長年発掘調査が行われていました。私はその成果を地域コミュニティに還元すべく、遺跡公園内の博物館で地域住民を対象としたワークショップや近隣の小中学校でさまざまな出張講座を行いました。現地で生活をし、住民と深く関わることで、文化遺産の保護は理念だけでなく、彼らが継続的に関わることのできる手段や方法を提供する必要があることに改めて気づかされました。
二つめは、博士課程の調査を通して出会ったタイ北部プレー県の人々です。プレー県は、有形・無形の文化遺産が人々の暮らしと共にあるリビング・ヘリテージが息づく地域であり、比較的若い世代の住民が中心となって遺産の保護活動に取り組んでいました。私は彼らの強い熱意がどのようにして生まれたのか、また、有形・無形の遺産を包括的に保護するアプローチについて知りたいと思い調査を始めました。さらに、文化遺産の維持・継承のプロセスに大きな影響を与える「教育」にも注目し、研究データを集めました。
最近では、海の交流という視点から、特定の国家や地域という枠組みを超えた文化遺産の新たな保存、解釈、活用のあり方に関心を持っています。かつてグローバル規模のネットワークで繋がっていた海域が植民地化、国民国家形成などを経て分断され、時には文化遺産をめぐり対立する事例が各地で起きています。文化遺産が本当の意味で交流と理解促進の礎になり得るのか、研究を深めていきたいと考えています。