cseas nl75 年次報告会 IPCR

共同利用・共同研究拠点
「東南アジア研究の国際共同研究拠点」

小泉順子(京都大学東南アジア地域研究研究所)

東南アジア地域研究研究所は、2つの共同利用・共同研究拠点の1つとして「東南アジア研究の国際共同研究拠点」(略称 IPCR) を実施してきた。その目的は、国内外の東南アジア研究者コミュニティに研究所のリソースを提供し、活用してもらうことにより、共同利用・共同研究を推進することにある。具体的には、<タイプI:海外連絡事務所を活用したフィールド滞在型研究>、<タイプII:外国人客員制度を活用した拠点集中型研究>、<タイプIII:豊富な所蔵史資料を活用した資料共有型研究>、<タイプIV:近い将来のプロジェクト形成を目指す萌芽型研究>、<タイプV:『地域研究叢書』の公募出版>、<タイプVI:若手育成のための個別研究>、<タイプVII:若手の国際発信力強化型研究>の7つのタイプの研究活動を支援してきた。

令和4年度から2つの拠点が1つに統合されて新たに出発することとなり、令和3年度がIPCRとしての最終年となった。そのためタイプI, IIの新規公募は行われず、また2年間の研究期間を以て実施されてきたタイプIIIやIVも1年間に短縮して実施されるなど、コロナ禍で先行きが見通せない中、やや異例の最終年となった。

令和3年度の年次研究成果報告会は、2022年2月14―15日にオンラインで実施された。14日はタイプVIの6件、15日はその他のタイプの共同研究計21件について、それぞれ代表者が成果を報告した。例年通り、人文社会系から自然科学系まで、史資料の共有化をめぐる基礎研究から社会貢献を射程に入れた実践的な研究まで、研究所の特徴である学際的な雰囲気のもと幅広い研究活動の概要が紹介され、地域やディシプリンの枠を超えた「耳学問」と研究交流の機会となった。70名を超える参加登録があり、両日とも多数の参加者を得ることができた。

15日最後の「総合討論」では、これまでと趣向を変え、今後の東南アジア研究を担う若手の声を聴く機会とした。本研究所の小林知教授の司会のもと、池田真也 (茨城大学農学部)、 木場紗綾 (公立小松大学国際文化交流学部)、 河野文子 (京都大学大学院医学研究科)、 芹澤隆道 (京都大学東南アジア地域研究研究所)、 中村昇平 (京都大学東南アジア地域研究研究所)、 馬塲弘樹 (京都大学東南アジア地域研究研究所)、藤枝絢子 (京都精華大学人文学部)、 山田千佳 (京都大学東南アジア地域研究研究所)の各氏が登壇し、自身の専門や研究テーマを踏まえて東南アジア研究の課題や将来像について自由に見解を述べ、意見交換を行った。「地域研究」の懐の深さ、研究成果の発表方法、社会還元・実装研究、コロナ禍におけるフィールド調査をめぐる課題など、多様な論点について白熱した意見交換がなされた。オンライン開催のため、懇親会等で議論を続けることはかなわなかったが、令和4年度から開始される新しい共同利用・共同研究拠点に引き継がれ、さらなる議論が展開されることが期待される。