cseas nl75 特集4 たんけん動画「地域研究へようこそ」第4期公開

森を歩き、川に浮かぶ
〜長期観察で自然界の”つながり"を解き明かす

中川(光土木研究所自然共生研究センター)

 「自然界の多様な生き物たちはお互いにつながりあって生きている」、「自然界のバランスがくずれると人間も困る」。地球環境に関する話題の中では、しばしばこのようなフレーズを耳にすることがあると思います。では、ここで言う「つながり」や「自然界のバランス」とはなんでしょうか?こうした問題を、できる限り客観的に、理想的には数式で表現できるレベルにまで還元して説明するのが、私の研究する「群集生態学」または「生態系生態学」です。

 群集生態学や生態系生態学には、直接的な観察のほか、数理や遺伝子分析、人工衛星を使った地球規模の観測など、自然界を理解するためのさまざまなアプローチが存在します。その中で、私自身は直接的な観察を主な研究手法としています。河川の生き物や生息場所を直に観察したり、試料を採集して分析したりすることで、生き物たちの食べる-食べられるといった具体的なつながりや、どのような環境の変化に反応して増えたり、減ったりするのかを明らかにします。

 具体的には、私は大学院修士課程から10年以上、京都大学の芦生研究林で河川の魚類と生息場所の観測を続けています。芦生研究林では、ここ10数年、シカによる林床の植物の食べ尽くしが問題となっており、その影響は河川生態系にも大きな与えています。すなわち、林床の植物がなくなることで、上流域で森から河川に流れ込む土砂の量が増え、それが数年かけて運ばれ、下流にある私の調査地の川底を細かい砂が覆うようになりました。そうした環境の変化に対応して、礫底を好む魚種の減少と砂地を好む魚種の増加が観察されました。シカの増えすぎによる森林環境の変化は現在世界中で問題となっており、上記の結果は森と川・上流と下流のつながりを介してシカの影響が河川の魚たちにまで拡がることを示した貴重な研究例といえます。

 日本国内での研究に加え、最近はインドネシア・スマトラ島の熱帯河川でも研究を始めています。スマトラ島の河川周辺には、魚類にとって繁殖や摂餌のための重要な生息場所とされる水没林(雨季に川に沈む森)が存在します。しかし、現在スマトラ島の水没林は急速な開発によって消失しつつあり、現地での重要な食料である魚類への影響が懸念されています。今後、こうした問題について、私の得意とする直接観察の手法を用いて、森と川のつながりの重要性という視点から研究を進めていく予定です。