【研究交流目標】

1.東南アジア社会発展モデルと地域再編

 グローバル化とネオリベラル経済の進展に伴い世界秩序が再編されつつある現在、東南アジアは冷戦と内戦の過去を克服し、この十数年顕著な社会的安定と経済発展を見せてきた。また同地域は、長い歴史のなかでインド、中華、イスラーム、そして西欧の文明を積極的に取り込み、多民族多文化が共存共栄する世界を築いてきた。それは、イデオロギー対立に代わる文明衝突というハンティントンの予言の呪縛を断ち切る反証となり、国際協調・文明共存の可能態として世界が倣うべき先例となる。本事業では、東南アジアの歴史発展経路をふまえ、弱い国家を下支えする豊かな生態資源と社会資本、社会・文化の重層的で柔軟な編成、共存と発展のダイナミズムを解明し、東南アジア社会発展モデルとして提示する。
 現在東南アジアでは、インド世界から中華世界を結ぶ広域アジア地域と、人や資本の移動・交流によって緊密な相互依存関係を持つ高度な経済成長を遂げるに至っている。同時に国家を超えた解決を要する新たな問題・課題も生じており、それに対処するため、狭義の東南アジアを越えた地域協力と共存の柔軟かつ重層的な動きが見られる。本事業では、そうした現実の問題として資源・環境の超域的ガバナンス、災害や感染症、食料危機に直面する安全保障問題への対応、移動と流動に伴う文化・社会再編、新経済圏構想など、地域から発する応答を個別具体の現場からとらえ、グローバル化に巻き込まれる受身の周辺地域という見方を根底から覆し、東南アジア社会発展モデルの構築と地域の再編過程の解明に当たる。


2.研究協力ネットワークの広域アジア化と情報発信力の強化
 上述の課題に取り組むために研究者ネットワークの広域アジア化と、その情報発信機能の強化・整備を行う。

@ 従来の東南アジアを中心とする研究交流ネットワークを持続・強化するとともに、近年、東南アジア研究が盛んになった中国・台湾・韓国などの東アジアを含めた多方向の研究交流を行い、シンポジウム、セミナーの開催、情報発信機能の基盤整備、若手交流育成を実施する東南アジア研究の広域アジア研究協力ネットワークを形成する。

A 東南アジア研究所の発信する多言語ウェブジャーナル Kyoto Review of Southeast Asiaの編集に、この研究交流ネットワークのコアメンバーを加えることで、多言語機能を強化、情報源の多元化を目指し、同ジャーナルを通じて、情報発信基盤の共有化を行う。本事業の研究成果もこのウェブジャーナルを活用して多言語で公開する。

B 東南アジア研究所が京大出版会、トランスパシフィック出版、シンガポール大学出版と共同出版してきた英文地域研究学術叢書をベースに、広域アジアの共同出版を推進し、アジアの研究者の情報発信強化を図る。


3.広域アジア若手交流育成
 カウンターパート諸国の研究教育機関にて、本事業のネットワークから講師陣を派遣し、短期集中型の東南アジアセミナーを開講し、域内の院生・若手研究者の留学・研究交流を促進して次世代にいたる研究者コミュニティを形成する。本事業の交流にも若手を多く動員するとともに、若手中心の研究発表・討論・交流のためのジュニア・カンファレンスを奨励・支援し、広域アジアにおける次世代研究者の交流と育成を図る。


■ 実施体制概念図 

■ 「東アジア地域システムの社会科学的研究」の発展的継承 

■ 広域アジア型地域研究 











 本研究交流は二つのグループA、Bのもとで複数の学際的なテーマを追求するとともに、情報発信の共有化実現を進める。

【Aグループ】「新たなる文明像と共生のかたち―越境・海域・安全保障」
  1.アジアの七つの海と地域再編:共生の歴史から現代的課題まで
  2.トランスナショナリズムの過去・現在・未来
  3.アジアの非伝統的安全保障(広域化する感染症・災害対処・食料危機)

【Bグループ】「東南アジア社会発展モデルの創造―環境資源・危機に立ち向かう経済・文化の
          広域化にみる地域再編」
  1.国境を越えた環境とガバナンス
  2.新地域経済圏構想のゆくえ
  3.文化・メディアからみる地域再編

 初年度にシンポジウムを開催し、各国の地域研究の状況について情報共有するとともに、グループAを交流計画の前半(平成21年度から23年度)、Bを交流計画の後半(23年度から25年度)に共同研究として進める。各グループは随時研究会やセミナーを行い、初年度はセミナーによる問題意識の共有、二年度目に共同研究と意見交換、三年度目に総括のためにシンポジウムを開催する。大きなシンポジウム開催は、初年度と最終年度は京都で、二年度目から四年度目は、インドネシア、台湾、タイで順に行う。

【情報発信の広域アジア化】
 具体的な研究交流基盤形成の方途として情報発信の共有化の道を探り、アジアから発信される地域研究がより広く東南アジア・東アジア各地でも欧米でも流通するような出版体制の共有化を推進する。ウェブジャーナルと出版における情報発信の共有化を強力化を図る。

【東南アジア・セミナー】
 毎年、短期集中型の東南アジア・セミナーを四機関あるいは四カ国のいずれかにて開催し、本事業の学術的成果を若手研究者への教育に当てる。




■ 東南アジア発のグローバルな課題への取組み 

■ 広域アジア研究教育ネットワークの活性化 





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