東アジア諸国は、一時は東アジアの奇跡といわれ、また1997年に始まる通貨危機後も多くの国でV字型の回復を示すなど、おおむね良好な経済成長をとげてきた。この成果は、多くが、1980年代に始まる構造調整政策の結果、高い競争力をもった産業が成長して輸出が成長を牽引したこと、さらに1997年以降の通貨危機以降は一層の輸出の伸びがあり、これはこの時期に一層の進展をみた国境を越えた生産ネットワークの形成によるところが大きい。しかしながら、2008年に始まる世界金融危機は東アジア経済に大きな打撃を与えている。それは、欧米、とくに米国の輸入が大幅に減少したことから、この間、最終製品の輸出先として欧米、特に米国に依存していた東アジア経済は最終製品の販売先を失うのみならず、輸出で得た貯蓄の投資先としての米国に金融市場を失い、その経済は深刻な危機に陥っているのである。実に、東アジアは輸出先として米国に依存するのみならず、輸出で得た貯蓄の投資先としても米国に依存していたのである。この危機から脱するためには、欧米などの域外市場に依存するのではなく、アジア諸国の域内の需要を高める必要がある。そのためには、従来、(輸出)競争力強化、生産性向上一辺倒できた東アジア経済が、消費を高め、域内大衆の生活水準を高め、貯蓄の投資先を域内で確保する必要がある。これは従来のモデルを再考し、競争力・生産性重視の経済から、安全・安心・環境重視の経済へと進まざるを得ないという点で、大き転換がもたらされると考えられる。金融部門ではイスラーム金融が一層の注目を集めよう。本共同研究はこの成長モデルの転換について考察を行う。これは、昨年度までの拠点大学交流事業の最終段階において手がけたテーマであり、これを継承するものとなる。











【平成21年度】
 昨年度までの拠点大学交流事業の最終年度に始めたアジア経済危機への対応を考えるサブグループを継承し、「東アジア成長モデルの再考」と題し、コアメンバーを継続しつつ新メンバーを加えて共同研究を進めた。2月のセミナーにおいては、経済危機とその後の各国経済の対応について各国を代表するエコノミストに議論に加わっていただき、従来の輸出依存型の経済とは異なる東南アジア地域の在地の社会資本を基盤とした経済発展の形を模索した。非常に活発に有益な議論を行うことができた。プロシーディングスは現在準備中であり、これをもとに本共同研究は編著という形での成果を編集する。

【平成22年度】
 経済危機に立ち向かう東南アジア各国は、これまで欧米や先進国の生産ネットワークの中で輸出志向型の工業化を進めてきた。しかし、東南アジア各国の中でも大きく発展を遂げ、グローバル経済における位置づけも変化しようとしており、加えて現在のグローバルな経済危機への対応、そして東南アジアをはさむ中国とインドの成長はこうした構図と、そこにおける東南アジアの位置づけにインパクトを与えつつある。
 経済危機のもたらす影響は、現在だたなかにあって容易に見通せるものではないが、ここで目指すのはエコノミストが行うような短期の経済観測ではない。むしろ長期にわたってこの地域の経済の展開を見据えてきた専門家を集めて現場での対応とその方向性を見定めることで、この地域の経済活動がどのような大きな変化の途上にあるかを見据えることである。共同研究3は、前年度2月のセミナーにて、アジア経済危機とそれをめぐる各国の対応がどのようにその後展開してきているかを検討するとともに、地域全体での取り組みを様々なレベル・トピックから明らかにした。このように総合的に直近の経済危機を、各国のトップレベルの専門家を呼んで議論したのは画期的な試みであり、今年度は、その成果をまとめて出版に向けて準備を進める。代表的なメンバー数名が京都に会して、編集のための討議・実務的検討を行う。








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