京都大学東南アジア研究所ナビゲーションをスキップしてコンテンツへ 日本語 | English
サイトマップ | ローカルページ
Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

共同利用・共同研究拠点

共同研究 (タイプIV: 萌芽型)

「マレー・イスラム圏における国民・民族概念の展開:プラナカン概念の再検討を通じて」
研究代表者:山本 博之(京都大学・地域研究統合情報センター)
(実施期間:平成21年度~平成22年度)

研究概要

2010 年7 月頃に第1 回の研究会を行い、東南アジア各国の華人社会の研究者の参加を得てプラナカン概念について検討する。また、11 月頃に第2 回の研究会を行い、マレー世界における混血者・外来者という観点から見たプラナカン概念について検討する。1 月頃に第3 回研究会を実施し、上記の2 つの研究会の成果を踏まえてプラナカン概念について検討する。

研究目的・意義・期待される効果

「マレーシア映画の新潮流」の牽引役となったヤスミン・アフマド監督。現実には民族混成社会でありながらも映画はマレー人による単一民族社会でなければ国民映画と認められないマレーシアにおいて、民族性を越境したプラナカンを積極的に描く作品を作り続けた。

欧亜混血のプラナカンでマレーシア・サバ州の初代州首相に就いたドナルド・ステファン(後にフアド・ステファンに改称)。地元生まれの欧亜混血者を両親に持ち、幼少期は西洋風に育てられ、1950 年代にカダザン人の指導者となり、1970 年代にイスラム教に改宗した。

マレー・イスラム圏における集団分類概念である「プラナカン」(peranakan)に着目して、分析概念としてのプラナカン概念の有効性を検討する。「プラナカン」は主に「現地化した中国系住民」と理解されてきたが、中国系に限らず「現地生まれ」と「混血者」を併せ持つ存在を指して広く使われている呼称である。本研究課題では、まず事例研究を通じてプラナカン概念を抽出し、マレー・イスラム圏における国民・民族の形成過程をプラナカン概念から捉えなおす。その上で、非主流派と位置付けられた人々の対応戦略としてプラナカン概念を整理し、マレー・イスラム圏の文脈を離れた分析枠組としてのプラナカン概念の有効性を検討する。

現地化した中国系住民に関するプラナカンとムラユ(マレー人)に対する混血者・外来者としてのプラナカンに分けてプラナカン概念を検討する。これまで主に国民や民族によって行われてきた人間集団の把握に関して、国民や民族のように排他的な境界によって区切られるのではなく、しかしコスモポリタンのように個人の自立性の強さに依存するのでもなく、特定の土地と結びついた雑種性を特徴とする人間集団のあり方としてのプラナカン概念を確立させる。この研究を通じて、プラナカン概念が東南アジアに起源を持ち世界に通用する分析概念となることが期待される。

研究成果概要
東南アジア学会第83回研究大会のパネル企画「国民であること・華人であること―20世紀東南アジアにおける秩序構築とプラナカン性」で華人系プラナカンについて発表し、プラナカン概念について検討した(2010年6月6日)。また、研究会を1回開催し、非華人系プラナカンの事例をもとにプラナカン概念について検討した(2011年2月13日)。
 本研究の成果の1つとして、英文叢書『バンサとウンマ――イスラム教圏東南アジアにおける人間集団分類概念の展開』を京都大学学術出版会より刊行した(2011年2月)。また、米国ハワイで開催される国際会議ICAS6で研究成果を発表する。(2011年3月末、予定)
 本年度の研究を通じて、非華人系プラナカンの事例研究を通じたプラナカン概念の抽出は一定の成果を見たが、インドネシアの華人系プラナカンに馴染んでいる研究者にはプラナカン概念の相対化にやや戸惑いがあることが明らかになった。プラナカン概念を分析枠組とする上では東南アジア研究以外の分野で検討する方が有効であるように思われる。