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Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

共同利用・共同研究拠点

共同研究 (タイプI:フィールド滞在型)

「アンコール後期王道ネットワークの意義」
研究代表者: 松浦 史明(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科)
(実施期間:平成23年度~平成24年度)

研究概要

本共同研究は、歴史、考古、美術、バライ研究など多分野の知見を総合し、これまで個別的に論じられてきたアンコール時代の中央と地方の関係、王道ネットワークの意義とその変遷を多角的に検討することで、特にアンコール後期(10世紀末以降)の権力のツリー状構造をあきらかにすることを目的とする。この目的を達成するために本共同研究では、研究会や現地踏査を通じ、分野横断的な「王道データベース」の作成を行う。

研究目的・意義・期待される効果

アンコールの古代橋(コンポン・クデイ橋)

アンコール・トム東門

本グループの研究では、およそ6世紀の間続いたアンコール時代は、同じ構造体を継続していたのではなく、10世紀末を境界に大きく前期、後期の2時代に分けられる。前期と後期とでは、地方官僚制の発展、寺院網を基礎とする商業ネットワークの拡大、それまで中央で建設されていたバライの地方化、宗教儀礼・美術の地方差、王道沿い寺院遺構・遺物の分布などの面で、両期の明確な時代差が啓示されている。

本グループは、これらの現象はアンコール中央からの分離を意味するのではなく、広大な領域に走る「王道」ネットワークにより緊密に結ばれた権力のツリー状構造の出現と考え、東南アジア大陸部を走る王道の網状構造を解明することによって、アンコール後期における権力構造を明らかにすることを目的とする。

アンコールの王道はこれまで、ジャヤヴァルマン7世の領域拡大との関連で論じられたことはあったが、王道の網状分布と寺院、地方都市、バライなどの地方的現象とを相関させた研究はなく、地域・分野横断的な新しい視座を提供することで学界に資すると考える。

期待される成果としては、(1)王道の年代別分布地図の作成、(2)ネットワークの拠点都市で発見された碑文、バライ、遺構、遺物のデータベースの作成を通じたそれぞれの地方拠点の政治・経済・宗教複合構造の解明、(3)衛星情報をベースとして、(1)(2)のレイヤーを重ね、「王道データベース」を作成することが挙げられる。

研究成果概要
今年度は、数回の事前研究会を開いたのち、2月下旬から15日間にわたってアンコール王都からSdok Kok Thomまで伸びる王道とそこにかかる古橋、周辺の遺跡の調査を行なった。
今回の調査の結果、王道はその環境によって、①低湿地、②乾燥平原部、③ダンレーク山脈の峡谷部に分類されるとの感触を得た。①低湿地(西バライ西北部からSasar Sdam付近まで)は、国家による開拓地であり、少なくとも一部の橋が水利施設として利用されていた蓋然性が強い。②乾燥平原部(Sasar Sdam付近からSvay Chekまで)については、おそらく往時は基本的に未耕地で、川の流域に地方豪族による荘園がいくつかあったのみである。古橋もあるが水利施設として使用された痕跡は確認できなかった。③峡谷部(Svay ChekからSdok Kok Thomまで)は、地方豪族による荘園が発達していたようにイメージされる。
上記仮説をもとに、今後各共同研究者との連携のもと諸論考を発表する予定である。