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Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

共同利用・共同研究拠点

共同研究 (タイプⅣ: 萌芽型)

「東南アジアを対象とした過去50年間の広域再解析気象データと村落レベル農業活動履歴の照合」
研究代表者: 長野 宇規(神戸大学大学院農学研究科 )
(実施期間:平成23年度~平成24年度)

研究概要

気象学の分野では、全世界の地点観測データを面的に展開した気象データ(再解析データ)が、温暖化メカニズムの解明等に広く用いられている。本研究では、東南アジア大陸部を対象に、過去数十年にわたる再解析気象データと地表面での農業被害との対応関係の照合を、下記手順によって行う。
(1)聞き取り調査や農業統計からの農業被害履歴情報の取得
(2)(1)と観測に基づく降雨分布データ等との対応関係の検討
(3)観測降水量データと再解析データとの突き合わせによる、農業被害が生じた際の降水量分
   布をもたらした気象メカニズムの分析

研究目的・意義・期待される効果

全球気候モデルを用いた気候変化予測。降水量から蒸発量を差し引いた収支の変化を示す。赤が濃い地域ほど渇水側、青が濃い地域ほど豊水側に変化する。

タイ東北部コンケン県における年間降水量と作付面積の年変動。天水稲作地域では、稲の作付面積は降水量に応じて大きく変化する。干ばつ(写真右上)主な不安定要因だが、洪水(写真左上)もまた、コメの生産に大きな影響を与える。

本研究の目的は、NCEP/NCAR、JRA25など、過去50年間にわたる全球再解析気象データ(再解析データ)と、村落での聞き取りで得られた地表面の農業・生業活動が気象から受けた影響(旱魃・洪水などによる農業被害、それに対する農民や地域社会の対応)に関する情報を、農業統計や現地の気象・水文観測データを介して照合・統合することにより、過去にさまざまな地域・地点で起きた旱魃などの事象がどのような広域大気循環下でもたらされたか、その因果関係とメカニズムを明らかにすることにある。

再解析データは、そのデータ構造や時空間解像度において、数値シミュレーションモデルによる温暖化予測結果との類似性が極めて高い。再解析データによる気象条件と地表面の現象との関係を分析し、その結果を蓄積することにより、温暖化気候下でどのような事象が生じるか、具体的に論じることが可能になる。本研究は再解析データと人間活動履歴との照合を行い、その事例を蓄積しようというもので、将来の気候変動が地域社会に与える影響を評価し被害軽減策を検討する上で大変意義深い。

本研究の最終成果としては、「再解析データによる広域気象条件・大気循環」「観測による各地域の気象条件」「各地域の農業被害」、および「地域社会の対応」という4つの要素を関連付けてまとめた事例集を編成する予定である。この事例集は、数値シミュレーションモデルによる気候変動予測結果に基づいて将来起こりうる農業被害を予測し、さらに被害軽減策を策定する際に役立つものと期待される。

研究成果概要
東南アジアとその周辺地域の再解析気象データの分析を行い,おおむね地上で観測される雨季と乾季,雨季の間の降雨パターンを表現し得ていること,エルニーニョ・ラニーニョ等の全球規模の大気循環変動とインドシナ半島の地域的気候変動との間に相関がみられることを確認した.ただし現時点では再解析データの格子点間隔(数百㎞)が大きく,地表面の状況との単純比較は困難なため,次年度以降,メソスケール(数㎞~数十㎞)の気象・水文データも併用したダウンスケール手法を開発することとなった.
メソスケールにおける地表面の土壌水分状況を示すデータとしてはLバンド合成開口レーダーであるPALSARの画像が有効であり,雨季期間中の複数時点のデータを利用することにより,それぞれの農地の土壌水分特性(干ばつになりやすい農地,湿潤な農地など)を分類できる可能性が示された.