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Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

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科研費プロジェクト

「ベトナム北部山地の農業発展の多様性:山地部の新しい環境開発戦略を求めて」
研究代表者:柳沢 雅之

研究目的
ベトナムでは1950年代から80年代の終わりまで、政治的な理由により、山地部での調査は非常に制限されていた。しかし、1990年代以降、東西の冷戦構造が崩壊し、市場経済が導入され、さまざまな人とモノの動きがさかんになると同時に、環境問題に対する関心が高まり、山地部での調査研究が活発に開始された。その結果、かつては、山地斜面では焼畑が、山間盆地では水田水稲作が行われているといった牧歌的なイメージが先行していたこの地域が、1960年代以降、実は、複雑な地形や土壌条件に微気象の違いが加わった多様な自然環境のもと、きわめて多様な農業生産が行われており、その上に、人口圧の高まりや移住、少数民族の移動、商品経済の浸透、開発援助プログラムや環境保護政策の導入といったさまざまな社会・経済的な要因によって、山地部の農業生産システムと人びとの暮らしは、地域によってきわめて多様で、かつ急激な変化を遂げてきたことがわかってきた。
ところで、山地部はベトナム国内でもっとも開発のおくれた地域である。ベトナムの政治経済的な中心地から地理的に離れていることのほかに、多様な条件を持つ山地部は画一的な開発政策では十分な効果をあげられないことがその大きな理由である。環境問題への対処も含めて、ベトナム山地部の開発を考えるときには、地域差を考慮した細かい対応が求められる。
では、地域差を考慮するためには、どのような情報が必要とされているのか? 農業生産を主体にした開発の技術的な側面から見ると、まず、農業生産の地域ごとの潜在力を評価することが必要である。山地部では自給的な農業生産だけではなく商業的生産も活発に行なわれている地域があり、農業潜在力とは、自然環境条件から規定されるものだけではなく、インフラやマーケットへのアクセスなど、社会経済的な要因も考慮されなくてはならない。しかし、現在のベトナム山地部では、自然環境や社会経済のミクロな条件が地域の農業生産活動におよぼす影響についての詳細な情報は、フランスチームによるBac Kan省での研究を除くと、きわめて少ない。本格的な調査研究そのものが1990年代になって開始されたばかりであるため、事例研究の蓄積さえきわめて少ないのが現状である。
こうした背景のもと、申請者は、平成11年4月〜平成13年3月に実施された国際学術研究「東南アジア大陸部の環境ストレスと農村社会経済変容を考慮した土地生産力評価」の研究メンバーとして、ベトナム北部山地において、土壌や気象データなどの自然環境データの収集、広域調査による農業生態区の分類、条件の異なる3地点(Son La省Moc Chau県、Lai Chau省Dien Bien県、Lao Cai省Bac Ha県における数社を対象)における1950年代以降の農業発展史に関する集中的な聞き取り調査を行なった。また、平成12年4月から開始された国際学術研究「大規模開発された熱帯畑作地帯における農業資源と持続性評価」のメンバーとして、Moc Chau県とBac Ha県内に微気象観測ステーションをそれぞれ3台設置し、現在も微気象の計測をベトナム側カウンターパート(ベトナム農業科学技術院)と協力して継続している。これらの研究から得られる情報は、東南アジア大陸山地部における条件の異なる広域の地域間比較に有効であるが、ベトナム側から見れば、依然として点としての情報にすぎない。
そこで本研究では、こうした先行研究から得られる情報を元にして、ベトナム山地の新しい環境開発戦略策定の基礎となる地域情報インベントリー作成を最終的な目標に置き、これまで行なってきた事例研究の面的拡大を行なう。具体的には、条件の異なる4地点の農業発展史を、それぞれの県の発展史の中に位置付けるために、県レベルの詳細な自然環境データの収集、県内の全社を対象とした網羅的なインタビュー調査を実施し、それらの情報を地理情報システムを駆使して面的に拡大し、県レベルでの発展史を明らかにする。そして、自然環境と社会経済的な条件、そして県内のさまざまなネットワークが地域農業発展史におよぼした影響を明らかにし、将来の環境保護や開発の方向性について考察する。本研究実施過程で、県レベルの地域情報インベントリーをデータベース化する作業をベトナム農業科学技術院と行い、ベトナム山地部におけるインベントリー作成の基礎フォーマットを作成する。本研究の終了後、山地部全域での地域情報インベントリー作成し、地域差を考慮した環境開発戦略を策定するための新しい国際共同プロジェクトを立ち上げる。
業績概要(16年度)
平成16年7月13日から8月1日にかけてベトナムを訪問し、ハノイで地図・統計・図書などの研究関連の各種資料を収集したほか、北部山地のラオカイ省バオタン県とソンラー省モックチャウ県にてフィールド調査を行った。ラオカイ省では都市-農村関係に関する調査を目的として、県都から距離の異なる3社にて、社レベルの経済活動における県都の役割に関する調査を行った。その結果、省―県―社といった行政上のヒエラレキーが農村-都市関係におよぼす影響は、人びとの活動によって異なることがわかった。たとえば、農村レベルの主要な現金収入源は、条件の違いにかかわらずどの社でも家畜飼育と農業生産に特化していた。それらの農産物の販売はおおくの場合、社レベルで行われるが、その流通先は多様で、かならずしも県から省に集中するわけではなかった。非農業生産活動では、小物の販売や日雇い労働といった不定期の肉体労働と、行政機関での定期的な給料による収入が、収入源のほとんどを占めていた。後者は社によってほとんど変化はみられなかったが、日雇いの肉体労働については県都から遠方の社ほど、省や他の町での労働に従事する傾向が見られた。そして、肉体労働は、公式のルートというよりはむしろ、個人的なネットワークで紹介されていることがわかった。また、通常、行政上のヒエラレルキーと対応すると考えられる公共福祉関連の活動(病院や郵便など)も、人びとは病気の程度に応じて、使い分けていることがわかった。
モックチャウ県での調査では、自然環境条件の異なる3箇所に設置した気象ステーションのメインテナンスを行った。本データを用いて、傾斜地での微気象が、農村発展の違いにどのような影響を与えるのかについて、調査する予定である。
出版
  1. 著者名:柳澤 雅之
  2. 発行年:2004年
  3. 論文標題:ベトナム紅河デルタにおける農業生産システムの変化と合作社の役割
  4. 雑誌名:年報村落社会研究
  5. 巻・号:40
  6. 掲載ページ:247-268
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