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Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

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科研費プロジェクト

「地域情報学の創出−東南アジア地域を中心にして−」
研究代表者: 柴山 守

研究目的
地域研究は、自然生態・環境、人類生態、社会・歴史・文化、経済・政治など人文・社会・自然各分野の諸学問のすべてを包摂する。情報技術の急速な進展の中で、情報通信技術を前提とした地域研究の展開・発展を目指すことは重要である。情報学との学際的研究及び情報通信技術の高次利用という視点では、十分な実例・経験・研究成果が蓄積されていない。本研究では、従来の情報学を内包した空間情報学(Geoinformatics)概念を地域研究に導入して、「地域情報学」を創出し、地域研究に新たなアプローチや知見を与えることを目指すものである。具体的にはつぎの3つの課題を研究する。
1. 地域研究における情報学的手法に基づく実証研究
東南アジア地域を対象に、自然資源・利用動態に関する実証的研究、政治意識・政治行動の変容、仏教伝播や東南アジア交易における歴史・文化変容の実証的研究、社会生態・人類生態の実証的研究を行う。
2. 地域研究における高次情報システム研究
歴史・文化遺産のデジタルアーカイブやデジタルミュージアム、自然環境・生態、人類・社会生態情報のための3次元可視化システム、GISの高度化やリモートセンシング画像処理システムに関する研究を行う。
3. 地域研究における情報学コラボレーションと地域協力
学際的地域情報学研究拠点形成を目指す研究、及び前述の 1. 及び 2. の相互作用に関する研究を行う。
4. 地域研究のための情報資源・基盤研究
東南アジア諸国間でのインターネットを利用した遠隔講義システムによる情報基盤形成、図書・地図等の1次・2次学術資料等の情報資源の共有化、フィールド調査を軸とする参加型データベースなどの情報収集・蓄積・加工・検索・発信・提供の共通的情報システム基盤の研究を行う。
 以上の諸研究を進め、(1)地域研究に情報学を適用した情報学的研究手法の体系化、知識体系の構築、(2)情報学的視点から見る地域社会の動態・変容を俯瞰し、総合的地域研究の中での一領域としての地域情報学の創出を目指す。また、地域情報学の体系化を図り、研究結果として学術出版を意図し、広く研究者、社会に還元する。
業績概要(平成18年度)
本研究の目的は,情報学を内包した空間情報学(Geoinformatics)概念を地域研究に導入して,新たなディシプリン「地域情報学」を創出し,概念化・体系化して地域研究に新たなアプローチや可能性を与えることを目指すもので,研究目的に示す4つの研究課題を挙げている.研究目的に基づいて充分な成果が挙げられるよう,(1)地域研究及び情報学の双方の視点からの「情報」の理解と地域研究の新たな展開や展望を探る場の提供,(2)情報学的視点からのコア研究の推進,(3)個別研究の3領域に分け,地域研究の遂行に必要な情報基盤形成と環境整備,資料収集及び情報学的視点からの基礎的研究を進めた.
 平成18年度における研究成果の概要はつぎのとおりである。

1.地域研究・情報学の双方の視点からの「情報」の理解と新たな展開
 まず地域研究及び情報学双方の視点からの「情報」のもつ意味を考え,新たな地域研究の可能性と展開について検討・議論することが新たな学際領域の創出−地域情報学の構築の基本であると認識して,研究会,ワークショップ,シンポジウムを開催した.2005年4月から2年間に双方の視点からの経験・交流を行う「地域情報学研究会」を6回,地域研究の先駆者を語り部として研究手法を議論する「地域研究アーカイブ」を3回開催した.
シンポジウム「地域研究と情報学:新たな地平を拓く」(2007年2月,参加者116名)では,地域における[ひとのいとなみ]とそれをめぐる環境や諸システムなどの諸様相には「暗黙知」という「情報」が存在すること,地域研究におけるデータの生成において,情報学で扱うような「情報」と位置づけるためには,枠組み=メタ・ルールを考慮し,[知のインフラ整備]の必要性があることなどが提案・議論された.これは,従来の地域研究における「情報」の意味の議論を一歩踏み出した内容を含む.また,地域研究にとって空間と時間要素を考慮した時空間概念が重要であることが議論された.

2. 地域情報学を創出するためのコア研究の重点的推進とユニークな事例に期待する個別研究
 コア研究は,特に情報学の視点からのリーダシップで特定の地域や研究に特化して地域情報学の創出を重点的・計画的に推進する研究である.具体的な研究として,(1)ハノイ・プロジェクト−19〜20世紀のハノイ都市形成過程の4次元GIS分析を中心にハノイ建都1000周年の歴史とデジタルアーカイブの研究,(2)アユタヤ・プロジェクト−アンコールから東北タイに至るRoyal Roadと宗教伝播及び東北タイの寺院マッピングと僧侶の移動の研究課題を対象に意識的に情報学的手法を導入する研究を進めた.コア研究はいずれも進捗過程にあるが,従来の研究手法では見られない,いくつかの事例や成果を生み出しつつある.

2-1 ハノイ・プロジェクト−時空間概念モデルにもとづく都市形成過程の解明
 ハノイ・プロジェクトの5ヶ年計画における研究目標を遂行するためには,ベトナムやハノイの研究者との連携あるいは共同研究が不可欠である.平成18年度に連携・共同した組織・大学等の機関は,JVGC日本ベトナム空間情報学コンソーシアム,ハノイ国家大学,ハノイ鉱山地質大学,ハノイ人民委員会(ハノイ市当局相当),ハノイ理科大学,ベトナム科学技術院物理学研究所及び地理学研究所など10機関を超えた.また,在ベトナム日本大使館,JICAベトナム事務所など日本の機関等の協力も得た.
ハノイにおける19〜20世紀の都市形成過程と変容の研究では,仏統治下以前,仏統治下時代,及び以降の3時代の区分で,GIS/RS/GPSを利用した地図資料の研究とフィールド調査,都市形成過程の計量的分析,標高データも考慮した都市形成3次元モデル構築の研究が進む.これらの新たな手法の導入により,仏統治下の1890年から約20年間に現在のハノイの都市基盤が形成され,旧市街地,城砦,仏統治の新興地における都市形成過程と特徴が実証的に明らかになった.研究の成果及び事例は,「The International Symposium on GeoInformatics for Spatial-Infrastructure Development in Earth & Allied Sciences(GIS-IDEAS)2006」における地域情報学セッション,シンポジウム「地域研究と情報学:新たな地平を拓く」(前述)における基盤研究(S)「地域情報学の創出」セッションで報告した.

2-2 アユタヤ・プロジェクト−空間情報科学とフィールド調査の連携・結合による地域研究の新たな展開
 アユタヤ・プロジェクトは,2つの研究課題からなる.(1) アンコールから東北タイに至るRoyal Roadと宗教伝播,(2) 東北タイ寺院マッピングと僧侶の移動遍歴の研究である.前者では,衛星画像とRS技術に基づき10〜12世紀のアンコールワット・東北タイのピマイ間の寺院や橋,溜池などの現存する遺跡,工作物を調査し,フィールド調査と文献調査で実証する研究である.RSの歴史研究における新たな研究事例とフィールド調査に基づく研究手法を示した.後者では,東北タイの上座仏教寺院の立地及び関係する出家者の移動遍歴を,GPS(全地球測位システム)を採用したフィールド調査,寺院のデータベースを含む時空間マッピングとネットワーク分析に基づいて研究を進める.後者の(2)は,新たに2006年度からコア研究に位置づけた.

2-3 個別研究−分担者を中心に情報学を導入したユニークな研究の推進
 多変量解析による地域在住高齢者の健康実態に関するアジアの地域間比較,衛星画像とインターネットGoogle EarthなどのRSにより土地利用変容を探るサラワク研究,空間マッピングによるインドネシアにおける選挙と住民意識の変容など,個別的ではあるがユニークな研究成果を挙げている.

3. 地域分析のための時空間解析ツールの開発と情報基盤形成
 本研究課題では,地域研究に関する情報基盤の在り方や方式を研究することも研究目標の一つである.2005年地域情報学の構築を提唱して以降,国内の研究者を中心に任意の研究会−HGIS(Humanities GIS)研究会を組織し,旅費の補助を行った.2006年度まで14回を開催,参加研究者数は約25名である.本研究の成果は,大学共同利用機関法人人間文化研究機構が進める人文情報資源共有化推進事業(130のデータベースの横断・縦断検索と時空間にもとづく情報検索・解析の実現)における時空間概念を導入したシステム開発に技術的情報を提供し,協力してきた.その結果,時空間にもとづく情報検索・解析システムTimeMap,主題・時間にもとづく解析システムT2Map(Theme & Time)の開発において,国内外においても事例のない先駆的なツール開発として実現されつつある.また,地域研究での国際的な連携・コラボレーションを展開するために,遠隔ビデオ会議・講義システムの京都大学とバンドン工科大学,インドネシア大学,ベトナム国家大学,東南アジア研究所バンコク連絡事務所間での実証実験を行い,良好な成果を挙げた.GIS-IDEAS2006国際会議(ホーチミン市)及び地域情報学ワークショップ(バンコク)で正式運用し,地域研究を遂行する情報基盤として確立させた.

4. 地域情報学の展開のための国内外機関・組織との連携
 国内外において地域情報学の展開と体系化に関する研究は他に事例をみない.従って,地域情報学の新たな展開と研究活動の拡がりを目指すためには,本研究の趣旨に添う研究者の組織化と連携が重要である.国内での前述したHGIS研究会のほか,ベトナムではJVGC,タイ国アジア工科大学(AIT)RS研究グループ,米国カリフォルニア大学バークレイ校GISセンター,米国ECAI(Electronic Atlas Cultural Initiative), 台湾中央研究院,韓国文化研究所などの諸研究機関で地域情報学(Area Informatics)の提案と研究内容を紹介した.本研究で直接に主催・共催した国際シンポジウム・ワークショップは計6回,研究発表は約60件である.こうした研究活動の結果,「地域情報学」という研究領域が新しいディシプリンとして浸透してきており,ベトナム国家大学,中国科学技術院研究生院,ハノイ鉱山地質大学での講義依頼はその成果を示すものである.また,2006年4月に新たに発足した京都大学地域研究統合情報センターの研究部門として高次情報処理(地域情報学)研究部門が設置されたが,本課題の研究成果としての寄与している.

5. ニューズレター,Webによる研究活動の公開
 『地域情報学News Letter』の発行,ホームページ(http://gissv2.cseas.kyoto-u.ac.jp/kiban-s/)を公開している.
セミナー・シンポジウム一覧
  1. 開催日:平成19年2月9日-10日 
  2. 研究会名:シンポジウム「地域研究と情報学:新たな地平を拓く」
  3. 開催場所:京都大学百周年時計台記念館
  4. プログラム: PDF
  1. 開催日:平成18年12月8日(金) 16:00 - 18:30
  2. 研究会名:「地域研究アーカイブ」(基盤研究(S)「地域情報学の創出」主催)第一回研究会
  3. 講師:北原 淳(きたはら・あつし)龍谷大学経済学部教授
  4. 論題:「公文書解読とフィールド調査との間―タイ農村研究の経験から―」
  5. 開催場所:京都大学東南アジア研究所 東棟2Fセミナー室
  1. 開催日:平成18年11月9-11日
  2. 研究会名:GIS-IDEA2006国際会議及び遠隔ビデオ会議 ”地域情報学”
  3. 21世紀COE京都シンポジウム・「地域情報学の展開」セッション
  4. 開催場所:Rex Hotel ホーチミン(ベトナム)
  1.  
出版
  1. 著者名:石川 登
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:「マイクロ・トランスナショナリズム:ボルネオ島西部国境の村落社会誌」
  4. 書名: 『現代インドネシアの地方社会:ミクロロジーのアプローチ』,杉島敬志, 中村潔編, NTT出版
  5. 掲載ページ: pp. 177-212
  1. 著者名:Hayashi, Y.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“Inter-Ethnic Relations in Perspective: A Case from Southern Laos.”
  4. 雑誌名:Journal of Northeastern Thai Studies
  5. 巻・号:4・10
  6. 掲載ページ: pp. 13-30
  1. 著者名:河野泰之
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:「ラオス山地部の自然資源管理のための戦略と政策−解題」
  4. 雑誌名: 『のびゆく農業』
  5. 巻・号:968
  6. 掲載ページ:pp. 2-6
  1. 著者名:Matsubayashi, K., Okumiya, K., Wada, T. and Ishine, M.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題: “Older adult’s view of “successful aging”- Comparison between Japanese and American elderly.”
  4. 雑誌名:Jam Geriatr Soc
  5. 巻・号:54
  6. 掲載ページ: pp. 184-186
  1. 著者名:水野広祐
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題: 「合議・全員一致と多数決原理の間で-インドネシアの村落議会と村落会議」
  4. 書名:『現代インドネシアの地方社会―ミクロロジーのアプローチ』杉島敬志・中村潔編, NTT出版
  5. 総ページ数:pp. 148-176
  1. 著者名:桜井由躬雄
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題: 「ベトナム初級合作社の形成−紅河デルタ一小村バックコックのオーラルヒストリー1959−1962−」
  4. 雑誌名: 『史学雑誌』
  5. 巻・号:115・12
  6. 掲載ページ: pp. 1-38
  1. 著者名:佐藤孝宏, 河野泰之
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:「ポスト「緑の革命」期における東南アジア大陸部のコメ生産の空間分布の変容」
  4. 雑誌名:『熱帯農業』
  5. 巻・号: 50(別巻2)
  6. 掲載ページ:pp.41-42
  1. 著者名:Yonezawa, G., Shibayama, M., Yoshida, D. and Raghavan, V.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“Spatiotemporal Mapping of Cultural Heritage in Hanoi City”
  4. 雑誌名: Proceedings of the GIS-IDEAS 2006
  5. 掲載ページ: pp.416-421
  1. 著者名:桜井由躬雄
  2. 発行年:2006年
  3. 出版者:放送大学出版会
  4. 書名:「前近代の東南アジア」
  5. 総ページ数:295p
  1. 著者名:Saxana, K. G., Luohui L., Kono, Y. and Miyata, S. eds.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“Small-scale Livelihoods and Natural Resources Management in Marginal Areas of Monsoon Asia”
  4. 雑誌名: DehraDun: Bishen Singh Mahendra Pal Singh
  5. 掲載ページ:177p
  1. 著者名:Binh, H., Raghavan, V., Sarawut, N. and Shibayama, M.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“Implementing Spatially Enabled Portal and Content Magagement System”
  4. 雑誌名:Proceedings of the GIS-IDEAS 2006
  5. 掲載ページ:pp. 269-274
  1. 著者名:Anh, T., Masumoto, S., Raghavan, V. and Shiono, K.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“Accuracy of Topographical Maps Derived from JERS-1 SAR Interferometry”
  4. 雑誌名:Proceedings of the GIS-IDEAS 2006
  5. 掲載ページ: pp. 201-208
  1. 著者名:Nagata, Y.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“A Spatial Information System for Use in Socillogical Field Surveys: Prototype Experiments in Northeast Thailand”
  4. 雑誌名:Proceedings of the GIS-IDEAS 2006
  5. 掲載ページ:pp. 229-234
  1. 著者名:Viet, P., Duan, H., Raghavan, V. and Shibayama, M.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“Using Satellite Imagery to Study Spatial Urban Expansion of Hanoi City”
  4. 雑誌名: Proceedings of the GIS-IDEAS 2006
  5. 掲載ページ:pp. 242-250
  1. 著者名:Yonezawa, G., Masumoto, S., Shiono, K., Raghavan, V. and Shibayama, M.
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“Modeling and Visualization of Faulted Geologic Structure”
  4. 雑誌名: Proceedings of the FOSS4G Conference
  5. 掲載ページ:p.45
  1. 著者名:Yonezawa, G., Masumoto, S., Shiono, K. and Shibayama, M
  2. 発行年:2006年
  3. 論文標題:“3-D Geologic Modeling of Faulted Geologic Structure”
  4. 雑誌名:Proceedings of the GIS-IDEAS 2006
  5. 掲載ページ: pp. 365-370
  1. 著者名:柴山 守
  2. 発行年:2006年
  3. 書名: 「地域情報学の創出−東南アジア地域を中心にして−」(課題番号17101008), 研究代表者 柴山 守(京都大学),平成17年度科学研究費補助金(基盤研究(S))研究成果報告書
  4. 総ページ数
  1. 著者名:Shibayama, M.
  2. 発行年:2006年
  3. 書名:Shibayama, M. eds., Joint Proceedings of “International Symposium on Area Informatics and Historical Studies in Thang Long -Hanoi”, “International Symposium on Digital Preservation of Historical Heritage in Thang Long ?Hanoi based on Area Informatics”, “International Symposium on Geo-Informatics for Historical Studies in Asia”, Shibayama, M. ed.,
  4. 総ページ数:
  1.