第29回 2005年度テーマ
『東南アジアを超えて−華僑・華人研究のフロンティア』
2005年度は9月5日(月)〜7日(水)に開催されました。
内容
近年グローバリゼーションの新たな動きの中で、地域をめぐる区分が流動化してきています。これに対応して「東アジア共同体」といった新しい地域政策などが提起されるようにもなり、「東南アジア」という地域概念の意義が薄れてきているという懸念の声も聞かれます。同時に、東南アジア各地で中国問題・中国要素が複合的に登場するようになり、それに伴い、東南アジア・中国双方で、華僑・華人に対する新たな関心が生まれてきています。
今年の東南アジアセミナーでは、この「地域」の流動化と新しい華僑・華人・中国要素の展開を、相互に連動した動きとして捉え、地域やディシプリンを超えた議論の場から、「東南アジア研究」と「華僑・華人研究」の新たな課題や今後の可能性を探ることをめざします。
主な問いは次の2つ。まずこれまで研究の前提として自明視されてきた「東南アジア」という地域区分の再考です。研究、とりわけ華僑や華人に関わる研究を企図するにあたり、課題を位置づけるべき枠組みとして、あるいは比較・対照を考えるべき区域として、あるいは追求すべきダイナミズムや構造を明らかにしうる「全体」として、「東南アジア」という枠を設定することは、いかなる意義を持つのでしょうか。
他方、さまざまな地域において、経済、政治、文化などあらゆる領域で多様なインターアクションを重ねてきた「華僑・華人」の全容は、「華僑・華人研究」と一括して対象化され、把握されるべきか、という問いも考えたいと思います。言い換えれば、「華僑・華人研究」という独立した研究領域が存在し、独自の研究方法があると考えられるのか否か、そして近年の新しい動きは、旧来の研究にいかなる問題を提起し、現在、最先端の研究はいかなる方向に展開しつつあるかという問題です。
いずれも「地域」とは?ディシプリンや方法とは?という基本的問題に関わる大きな問いですが、セミナーでは複数のサブテーマ設定し、それらを糸口に考えていきたいと思います。
3日間のプログラムは、6つのセッションで構成されます。これらのセッションを通じて、(1)一方で現実の新たな展開を見据えつつ、(2)他方で研究の方法をめぐる新たな問題提起を論じ、(3)同時にこれまでの研究史を批判的に見直す、という3つの課題にとりくみたいと思います。
モットーは、インテンシブでクリティカルな議論。各セッションでは、複数の講師の方々に問題提起をしていただき、受講者の方にもディスカッサントや司会として積極的に参加していただきます。全員が、事前に共通の参考文献を読んで討論に臨み、自分の研究に基づいた様々な問題提起をし、議論に参加し、相互に研究を深め、展開させる場をつくりあげることをめざします。東南アジア研究に限らず、意欲的なみなさまの御参加をお待ちいたします。
プログラム
<地域とネットワーク> |
アジア・国際経済秩序と華僑・印僑 −19世紀から現在− |
杉原薫(大阪大学) |
帝国とネットワーク −近代日本の視点から− |
籠谷直人(京都大学) |
東南アジアと上海 −戦間期、帝国と国際共産主義運動− |
鬼丸武士 |
<華人と政治・経済> |
タイの旧華人・新華人: 財閥、政治家、華人組織にみる人的ネットワーク |
末廣昭(東京大学) |
ポスト・スハルト期インドネシアにおける華人のポリティクス |
岡本正明 |
<新《華僑・華人》ネットワークとトランスナショナリズム> |
Transnational Chinese: Global Mobility and Embedded Networks [in English] |
Liu Hong劉宏(シンガポール大学) |
Chinese/Japanese Symbiosis in Timber Business: toward Global Ethnography 南洋材と華人・日系企業 −グローバル・エスノグラフィにむけて−[in English] |
石川登 |
<新華僑とビジネス> |
華人系企業の経営構造分析 |
王効平 (北九州市立大学) |
華人の投資行動に見る <合股><聯号><合会> |
濱下武志 |
<文化・アイデンティティ・歴史> |
Culture and the “Chinese Question” in Southeast Asia [in English] |
Caroline Hau |
“Sangley”、“Mestizo”および“Indio”のあいだ -スペイン領フィリピンにおける"Chinese"を考える− |
菅谷成子
(愛媛大学) |
<華僑・地域研究・歴史> |
東アジア研究と華僑・華人史 −東アジアにおける華僑研究の歴史的再検討− |
濱下武志 |
東南アジア華僑・華人研究と歴史的手法 −G.W. SkinnerとV. Purcellを糸口に− |
小泉順子 |
▲ページトップ