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Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

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東南アジアセミナー

 第32回 2008年度テーマ
    『東南アジア世界の光と影』

2008年度は9月1日(月)〜5日(金)に開催されました。

内容

東南アジアは、かつて東西冷戦構造のなかで、アメリカとソ連の代理戦争が実際に熱く戦われた地域だった。ベトナム戦争(1959年~1975年)の終結後も、中国とベトナムの紛争(1979年の中越戦争と、その後10年におよぶ国境地帯の小競り合い)があり、カンボジアの内戦は1991年まで続いた。

しかし1990年代に入り、それまでの不信と対立から、地域の平和と安定のための協力へと、各国間の関係が次第に変化するのに応じて、東南アジアは経済的な急成長を遂げていった。現在ではそれ自身がひとつのまとまりとして政治・経済的に重要な存在感を持つに至っている。

そもそも東南アジア地域の別称ともなっているアセアン(ASEAN-東南アジア諸国連合)は、ベトナム戦争のさなかの1967年に、反共産主義の立場を取るタイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアの5ヶ国のあいだの地域協力を目的として組織された。それが1984年にブルネイ、1990年代後半にはベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアが加盟して、現在では10カ国から成る。

その総人口は 5億8千万人(2005年)であり、EU(欧州連合)やNAFTA(北米自由貿易協定)よりも多い。今後さらなる経済成長が期待されるとともに、北に接する中国、アンダマン海をはさんで西に接するインド、太平洋をはさんで東に向き合うアメリカという、3つの巨大国家のあいだを媒介あるいは緩衝する存在としての役割も期待されている。

しかし、冷戦終結後の十数年で達成した政治的安定と経済的発展という輝かしい側面がある一方で、いまだ古い問題が解決されたわけではなく、新しい問題も生じている。  

本セミナーは、21世紀初頭の今、東南アジアが直面している社会・政治・公衆衛生などの局面における主要な問題の発火点を取り上げ、各国家がいかに対応しているかについて検討する。問題の所在を発火点という言葉で表現するのは、それらが東南アジア地域における各国の安定に対して深刻な衝撃をもたらしうる切迫した危機の火種となり、対応を誤れば地域全体に多大な困難をもたらすからである。そのことはまた、日本にも直接間接に大きな影響を及ぼすことになり、グローバル化された現在を生きる私たちも無関心でいることはできない。  

一例をあげれば、1997年の通貨・財政危機はタイの経済を破綻寸前に追い込むのみならず、アジア全域にも甚大な被害を与えた。それは国内政治を激しく揺り動かし、タクシン・シナワトラのような野心的な指導者が登場する環境を作り出した。またインドネシアやフィリピンの経済復興プログラムを停滞させ、反政府勢力が時の政権に揺さぶりをかけるチャンスを与えた。さらに、これら諸国の国民経済の脆弱さは、都市と地方の貧困層をインフォーマル・セクター(経済の非公式部門)へと大量に追いやり、武器と麻薬の密輸や、売春目的での女性や子供の人身売買などの不法行為を急増させた。    

かつて権威主義が支配的であった地域において、体制の変化は民主的な合意に至る道を格段に広げた。しかし同時に、地方政治をコントロールしてきたマフィア・タイプの組織につけこまれており、その観点からみれば、国の政治もまた非民主的な方向への逆コースをたどりかねない。東南アジア地域における「民主化」の潮流は、いまだ残る権威主義体制を揺さぶり、逆にそれらの体制は国民の締め付けを強化し、ビルマ軍政の場合にはあらゆる反対運動を容赦なく弾圧し壊滅させてきた。  

また東南アジアにおけるグローバ化の進展は、地域の幾つかの貴重な天然(そして人的)資源の枯渇をもたらしている。自由市場と小さな政府というネオ・リベラル経済の考え方は、これらの国々の公共福祉政策にも影響を及ぼし、旧来のそして新型の感染症の猛威に国民をさらしたまま有効な対策を採れないでいる。ハイテクと知的資本に支えられた発展を目指しているシンガポールの繁栄さえも、旧来の感染症(デング熱)と新型のそれ(鳥インフルエンザ)に脅かされている。  

成長と繁栄とともに、こうした危機の発火点が生じてきていることは、地域の政治経済がいまだいかにひ弱であるのかを物語っている。東南アジアの発展という将来は、これらの問題を国ごとに、そして地域のレベルでいかに対処し解決するかにかかっている。  

それゆえこのセミナーでは、まずこれらの問題の重大さを概説し、参加者が、大学院生として、NGOのワーカーとして、政策の立案や分析に携わる者として、それらに関心を持ち、自ら調べ考え関わってゆくようになることを願い、プログラムを構成している。5日間にわたるセミナーの講義は、東南アジア研究所のスタッフを中心に、他部局・他大学の教員、大学院アジア・アフリカ地域研究研究科や地域研究統合情報センターやG-COEプログラムに所属する若手研究員らによって行われる。若手研究員を講師陣に加えるのは、今そこにある問題に対する彼/女らのヴィヴィッドな問題意識と研究成果をセミナー参加者に紹介するためである。講義の補助としてドキュメンタリー映像を用いる予定である。

対象と想定する参加者は広範な分野にわたる。学部や院生のみならず、NGO関係者、若手の政策立案・分析者、東南アジアの現在に関心のある市民らの参加を予想している。セミナーの達成目標は、学部学生に対しては大学院で東南アジア研究に進む動機付けを与えること、院生およびNGO関係者や若手政策立案・分析者に対しては、東南アジアの現状に関する広範な知識と深い理解を提供することであり、市民に対しては地域の光と影を含む複雑な総体を紹介することである。

プログラム

月日 時間 内容 担当
9月1日(月) < 総論-不安定な地域と生態環境の破壊 >
09:30-09:50 所長挨拶 水野 広祐
09:50-10:30 受講生自己紹介 細田 尚美
10:30-11:20 なぜ光と影なのか? P. アビナーレス
11:20-11:40 質疑応答
11:40-12:00 グループ調査のオリエンテーション P. アビナーレス
14:00-14:45 ボルネオのバイオマス社会の今:プランテーション、地球温暖化、バイオ燃料 石川 登
14:45-15:15 質疑応答
15:15-16:00 グループ調査テーマ設定とグループ分け 清水 展
16:15-16:30 情報処理室利用案内 木谷 公哉
16:30-17:30 図書管理用案内 北村 由美
9月2日(火) <不安定な政治>
09:00-09:45 暴力の私物化と民主化:インドネシアのやくざ、地方ボス 岡本 正明
09:45-10:15 質疑応答
10:30-11:15 東南アジアにおける銃・麻薬密輸、人身売買、その他の「非伝統的」安全保障問題 本名 純(立命館大学)
11:15-11:45 質疑応答
13:30-14:15 ミャンマー軍政下の抵抗と抑圧 中西 嘉宏(ジェトロ・アジア経済研究所)
14:15-14:45 質疑応答
15:00-16:00 ビデオ鑑賞(東南アジアにおける麻薬売買)
16:00-17:00 自由討論 岡本 正明・本名 純・中西 嘉宏
9月3日(水) <人の移動・貧困・感染症の拡大>
09:00-09:45 アジア各国の新型インフルエンザ対策:現状と課題 鬼丸 武士(政策研究大学院大学)
09:45-10:15 質疑応答
10:30-11:15 東南アジアにおける海外出稼ぎの社会的影響 細田 尚美
11:15-11:45 質疑応答
13:30-14:15 東南アジアの都市貧困層の起源と特徴:バンコクの事例から 遠藤 環(埼玉大学)
14:15-14:45 質疑応答
15:00-16:00 ビデオ鑑賞(国際労働移動)
16:00-17:00 自由討論 細田 尚美
9月4日(木) <グループ調査>
09:00-16:00 グループ調査(図書館、情報処理室)
16:00-18:00 グループ調査の進展報告 P. アビナーレス・清水 展・キャロル・ハウ・岡本 正明
9月5日(金) <グループ調査報告と討論 >
09:00-09:30 第1グループ発表 生方 史数
09:30-10:00 第2グループ発表 蓮田 隆司
10:15-11:45 第1,2グループ報告に対する討論 清水 展・P. アビナーレス
14:00-14:30 第3グループ発表 小林 知
14:30-15:00 第4グループ発表 木村 周平
15:15-16:45 第3,4グループ報告に対する討論 岡本 正明・細田 尚美
16:45-17:30 総合討論 実行委員全員