南シナ海に面した東南アジア沿岸域においては、アジ・サバ類やキス類など共通する漁業資源が多数利用されている。しかし、その漁獲方法や流通・販売方法は、旋網を中心としたタイ沿岸域と刺網や魞を中心としたフィリピン沿岸域では大きく異なっている。また、冷凍設備が整った大型漁港での漁獲物扱いと主要都市部から離れた地域での漁獲物の取り扱い方法や価格決定システムは、各国内でも大きく異なっている。これらの違いは地域住民の資源の有効利用への意識や資源管理への取り組みに大きな差をもたらしている。
本研究においては、資源利用の状況把握と管理に関する住民意識ならびに管理システムについて精査し、その比較検討から今後の水産資源管理に関して考慮すべき点を、住民視点で整理することを目的としている。本研究の主な対象エリアは、タイ王国シャム湾周辺とフィリピン国パナイ島周辺の漁業・漁村である。これらの地域において、分野横断的・学際的なフィールド調査を実施し、データと情報を収集する。大陸に連なるタイ王国と島国であるフィリピンの資源利用状況と管理方策の相違点を住民視点で整理することで、東南アジアの水産資源管理に関し普遍的な重要性を有する要因が把握できるものと期待している。
このような取り組みは、今後の沿岸域の開発に関して、経済規模拡大を目指す現代の開発概念に対して警鐘を鳴らし、開発と保全に関する新たな基準を提示することにつながるものと期待している。