本著作の刊行目的の一つは、「海域」が地域研究の一つの対象として成立すること、また「海域」を対象とすることで新たな東南アジアの地域像へとアプローチできることを世間に広く紹介することがある。とくに本著作では、「国家」の視点や枠組みではなく、「海域」という視点・枠組みから見えてくる東南アジア海域世界の地域像を紹介している点に特徴がある。もう一つの目的は人類史的な視点を踏まえることで、東南アジアという枠組みから検討するだけでなく、オセアニアを中心として東南アジア海域世界に隣接する周辺の海域世界との比較・検討を加え、東南アジア海域世界の地域像に迫るという、よりマクロで長期的な「海域」の視点から論じることの必要性を広く紹介するところにある。
いっぽう本著作の意義としては、先行研究で指摘されてきた「フロンティア」や「移動分散型社会」といった要素が、「セレベス海域」では約3500 年前頃に始まる新石器時代期に形成された可能性を考古学・人類学的なデータより明らかにしたことを挙げられる。また研究方法においては、これまで地域研究を行う上での主な研究法とはあまり見なされてこなかった考古学を取り上げ、この分野で発展してきた「現在」にもアプローチできる民族考古学の手法から地域研究の実践が可能であることを証明した点も、その意義の一つである。