本研究は、カンボジアの官報を利用した文献研究と、すでにフィールド調査を行っている社会科学者の知見を統合することで、カンボジアにおける近代国家形成の過程と、そうした過程が地域社会の人びとの生活をいかに変えてきたのかという問題を、長期的な時間軸のもとで検証する。
本研究の意義としては、研究資料の整備と、地域研究の方法論の発展という二点があげられる。研究資料の整備という点では、すでに1985 年以降のクメール語版官報を収蔵する東南アジア研究所が、カンボジアのみならず東南アジア諸国の国家形成の過程や、フランス植民地支配の実態を比較研究するうえでも欠かすことができない官報資料を、網羅的に所蔵することが重要であると考える。一方、本研究は、近年著しい発達をみせている地域情報学の知見を取り入れ、研究成果の検討と公開という具体的な内容の部分でも、文献研究と社会調査の成果の融合をはかることを射程に入れている。
期待される成果としては、カンボジアの官報という未開拓の資料にもとづく独創的な論文をメンバーが発表していくことが期待される。さらに、ポル・ポト政権による断絶を経て、二度にわたる国家形成と地域社会の変容を経験したカンボジアを事例とすることで、現代社会の成り立ちを新たな視点から再考し、東南アジア地域研究を更新することが可能になると考えられる。