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Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

共同利用・共同研究拠点

共同研究 (タイプⅣ: 萌芽型)

「亡命の政治学――権力の国際的基盤をめぐる比較研究」
研究代表者: 相沢 伸広(日本貿易振興機構・アジア経済研究所)
(実施期間:平成23年度~平成24年度)

研究概要

本研究会では、政治指導者の亡命判断にある政治的背景とそこから明らかになる政権の国際的基盤を解明する。植民地期以降の代表的な政治変動において、国王や大統領、首相の亡命事案、そして亡命しなかった事案データを収集し、亡命という政治判断がどのようになされてきたのかを、東南アジアを中心としてアジア全域で明らかにする。その結果、各国政府の国際的権力基盤が、国家形成、権力維持、体制崩壊といった政治的節目でどのような重要度をもっているのかを分析する新たな視座を提示する。

研究目的・意義・期待される効果

ハワイに亡命中のマルコス元フィリピン大統領。1986年2月、エドゥサ革命後、ハワイへ亡命

ドバイにて事実上の亡命生活を送るタクシン元タイ首相。2006年クーデタにより政権を追われその後、UAE他にて亡命生活

2011年、チュニジアのジャスミン革命に始まった政治的激動において、長期独裁政権を築いていた各国の指導者たちはいよいよ政権崩壊が現実のものになると、亡命の是非が噂されるようになった。一方、東南アジアでは、1998年スハルトが亡命するとは誰も考えなかった。1986年マルコスが亡命したのは必然と考えられた。タイの現国王がどれほどの政治的圧力を受けたとしても、亡命するとは誰も考えないだろう。こうした判断の違い、国民の受け止め方の違いには極めて重要な政治的示唆がある。それは、各国の政権基盤がどれほど国際的なものなのかという点である。本研究会では、こうした政治指導者の亡命について、多国間比較、そして時代比較を行うことによって、例えば東南アジアと米国、中国、日本といった域外大国との関係について、各国政府の国際的権力基盤の政治的意味を、亡命という政治指導者の判断を題材に、裏から照射する。

政治亡命の研究は、これまで主に反体制派の研究に焦点をあててきた。数少ない例外が、マルコス研究、李承晩研究といった特定の政治指導者研究であるが、広く体制変動と政治亡命について指導者の亡命に注目した研究はない。従来の国内政治分析も、国内の政治勢力の支持動向については詳しいが、国際的な支持・不支持が、権力の誕生、維持、崩壊それぞれの局面でどのような役割をもったのかについて、体系的に研究してこなかった。そうした背景から、本研究会は亡命という極めて重要な政治判断についての新たな視点を提示するものである。

研究成果概要
本研究会の主たる成果として期待できるのは、地域横断型の比較研究の知見である。従来、権力者の亡命については、各国の歴史家の手によってその詳細が記録されてきたものの、そこには大きな言語の壁があり、物語が共有されることは少なかった。そこで研究会では第一に異なる地域を専門とする各委員がそれぞれの地域の亡命事案について紹介共有することに努めた。第二に、そこで収集した各事案の比較のデザインを検討した。比較政治学、経済学双方の最新の研究手法を取り入れることで、まずは権力喪失過程におけるリーダーシップ論について、まとめた。ここでは、2010年のチュニジア、リビア、エジプト、イエメン、シリア、冷戦期の韓国、カンボジア、タイなどを主に扱い、同時期に権力者の亡命が起きなかった日本や中国、そして新たなかたちで権力者が亡命政治活動をしている、タイについても、討議を重ねた。