2011年、チュニジアのジャスミン革命に始まった政治的激動において、長期独裁政権を築いていた各国の指導者たちはいよいよ政権崩壊が現実のものになると、亡命の是非が噂されるようになった。一方、東南アジアでは、1998年スハルトが亡命するとは誰も考えなかった。1986年マルコスが亡命したのは必然と考えられた。タイの現国王がどれほどの政治的圧力を受けたとしても、亡命するとは誰も考えないだろう。こうした判断の違い、国民の受け止め方の違いには極めて重要な政治的示唆がある。それは、各国の政権基盤がどれほど国際的なものなのかという点である。本研究会では、こうした政治指導者の亡命について、多国間比較、そして時代比較を行うことによって、例えば東南アジアと米国、中国、日本といった域外大国との関係について、各国政府の国際的権力基盤の政治的意味を、亡命という政治指導者の判断を題材に、裏から照射する。
政治亡命の研究は、これまで主に反体制派の研究に焦点をあててきた。数少ない例外が、マルコス研究、李承晩研究といった特定の政治指導者研究であるが、広く体制変動と政治亡命について指導者の亡命に注目した研究はない。従来の国内政治分析も、国内の政治勢力の支持動向については詳しいが、国際的な支持・不支持が、権力の誕生、維持、崩壊それぞれの局面でどのような役割をもったのかについて、体系的に研究してこなかった。そうした背景から、本研究会は亡命という極めて重要な政治判断についての新たな視点を提示するものである。