本グループの研究では、およそ6世紀の間続いたアンコール時代は、同じ構造体を継続していたのではなく、10世紀末を境界に大きく前期、後期の2時代に分けられる。前期と後期とでは、地方官僚制の発展、寺院網を基礎とする商業ネットワークの拡大、それまで中央で建設されていたバライの地方化、宗教儀礼・美術の地方差、王道沿い寺院遺構・遺物の分布などの面で、両期の明確な時代差が啓示されている。
本グループは、これらの現象はアンコール中央からの分離を意味するのではなく、広大な領域に走る「王道」ネットワークにより緊密に結ばれた権力のツリー状構造の出現と考え、東南アジア大陸部を走る王道の網状構造を解明することによって、アンコール後期における権力構造を明らかにすることを目的とする。
アンコールの王道はこれまで、ジャヤヴァルマン7世の領域拡大との関連で論じられたことはあったが、王道の網状分布と寺院、地方都市、バライなどの地方的現象とを相関させた研究はなく、地域・分野横断的な新しい視座を提供することで学界に資すると考える。
期待される成果としては、(1)王道の年代別分布地図の作成、(2)ネットワークの拠点都市で発見された碑文、バライ、遺構、遺物のデータベースの作成を通じたそれぞれの地方拠点の政治・経済・宗教複合構造の解明、(3)衛星情報をベースとして、(1)(2)のレイヤーを重ね、「王道データベース」を作成することが挙げられる。