本研究の目的は、戦前から戦後にかけてのフィリピン開発政策を通時的に俯瞰し、20世紀初頭より公衆衛生や生活環境の向上に伴い急増したフィリピン人口が、開発政策に与えた影響を具体的に考察することにある。カトリック教徒が大多数を占めるフィリピンでは、社会や教会勢力の抵抗もあり、政治的に人口規模を抑制することには多くの困難が伴う。戦前には土地と人口の不均衡が顕在化し、小作問題や労働争議が発生した。人口問題は社会不安を惹起する深刻な政治課題であった。戦後も生産力と雇用創出を上回るペースでの人口増加が続き、貧困層が人口の大半を占めている。
本研究では、以上の歴史的変遷を考慮しながら、フィリピンの人口増加が開発政策にもたらした影響を包括的に検討する。今回英字日刊紙Manila Tribuneの入手により、従来研究が手薄であった独立準備政府期(1935~46)の考察が可能となる。本研究の意義としては、購入予定資料により20世紀前半の資料的空白を、東南アジア研究所が埋めることが可能となり、歴史・文化領域での豊富な蓄積(フロンダコレクション・オカンポコレクションなど)と相乗効果が期待できる。期待される成果であるが、フィリピン開発政策は、戦前から戦後にかけては宗主国米国との外交関係、さらに70年代以降になると世銀やUSAID、NGOといった国際援助団体等の影響力が支配的であると言われてきた。ところが、近年フィリピン人エリート政治家の意思決定の優位性や自立性を指摘する研究も散見される。本研究も、こうした新たな知見を総合し、斬新な視点でのフィリピン開発政策の歴史的実態解明が期待できる。
▲ページトップ