本研究は、脱植民地期から冷戦期(1950~60年代)の東南アジアで、国境を越えて域内・域外移動した華人たちのライフヒストリーを収集し、それらを連動させつつ分析することを目的としている。とりわけ注目するのは、同地域中最大の華人人口を抱えるものの、その後のいわゆる「同化政策」等の政治的影響で実地研究や文献資料が限られてきたインドネシアを移動の舞台とした華人たちである。本研究では、超域的で動態的であるが通常歴史の表舞台に出ないようなこれら華人によるナラティブを収集し分析することを通じて、現地化か中国化かという二元論を超えた華人像を描き出すと同時に、ナショナルヒストリーには回収し得ない人々の経験から見た新たな東南アジア史・社会像の再構築を試みる。
本研究の最大の特色は、インドネシアをフィールドとする華人研究者のみならず、中国およびタイをフィールドとする研究者を加えた地域横断型研究であることである。移住元・移住先双方に精通した研究者が共通の問題意識で収集したデータを持ち寄り討議することで、個人研究では不可能な複合的・多面的な状況把握が可能になる。
本研究を通して期待される効果として、まず長期定住を前提とした従来の華僑・華人史研究に新しいパースペクティブを提示することが可能であると考えられる。また、脱植民地期から冷戦期にかけてのアジア史の出来事が、東南アジアにどのような影響を与えたかを、個々人のライフヒストリーの収集と検討によって明らかにすることもできるだろう。
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