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Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

研究所紹介

性格と沿革

詳細

京都大学東南アジア研究所は、東南アジアおよびその周辺諸国を総合的に研究することを目的として設立された特色ある研究組織です。ベトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ビルマ(ミャンマー)、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ブルネイ、東ティモールの11カ国を研究対象としていますが、厳密にこの範囲に限定しているわけではありません。仏教研究のためスリランカへ、熱帯稲作研究のためバングラデシュ、インド、中国へ、対外経済活動の研究のため香港、台湾、韓国なども対象に研究をしています。

研究所の研究活動は、自然科学をも含む点において、人文科学とくに人類学と政治学を中心とする欧米の地域研究とは異なる特色をもっています。自然環境の現状と変遷を視野にいれ、変動する地域を総合的に捉えると同時に、関連学問分野との連携のもとに、新しい問題群に取り組み、既成の学問分野を越えた新しい知の枠組みを作り上げようとしています。しかしながら、総合的といっても、基本的には地域の内在的理解にまず取り組まねばなりません。そのためには微視的な分析・解析的な研究の積み重ねが必要です。一方、グローバリゼーションの渦中にある東南アジアを、地域間比較や俯瞰的・総合的な研究手法を通じて理解する必要性も高まっています。

いろいろなアプローチを比較・検討しながら、世界に類を見ない地域研究の推進に鋭意努力しているとはいえ、本研究所の中でも、総合的地域研究の手法が確立しているわけではありません。まだ、模索中といってよいでしょう。当面の目標として、その範型を世に示すことを掲げていますが、そのためにも、他の地域研究に関わる組織との連携がますます必要となっています。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、東京大学東洋文化研究所、北海道大学スラブ研究センター、東北大学東北アジア研究センターなど多数の地域研究関連組織と連携した、緩やかな協議体「地域研究コンソーシアム」を組織し、東南アジア研究所がその運営の幹事組織のひとつとなっているのは、その現れです。これらの連携を通じて、地域間比較研究あるいは通地域的課題に関する共同研究を推進しようとしています。

東南アジア研究所の前身である東南アジア研究センターが、京都大学に正式に設置されたのは、1965年のことです。それより以前、1963年1月には、本学に学内措置として「東南アジア研究センター」が設けられました。その当時は、もっぱら民間からの寄付金とフォード財団からの研究奨励金を委任経理金として受け入れ、それによって多数の本学教員を東南アジア各地の現地調査に派遣しました。タイ計画とマレーシア計画という2つの総合調査のもと、人類学者による村落定着調査から農学者による熱帯稲作研究に至る、極めて多岐にわたる調査が進められました。常に現地に密着し、現地の研究者と共同して研究を進めるために、当初よりバンコクに連絡事務所を置き、政府機関・大学・研究者との交流にも留意してきました。これらの研究の成果は、1963年に創刊された『東南アジア研究』に次々と発表され、内外の研究者の注目を浴びるにようになりました。

1965年4月に国立学校設置法施行規則の改正による全国で初めての「研究センター」として官制化されて以来、逐年、研究部門の増加を認められ、1988年度までに9研究部門、3客員部門からなる研究組織に成長しました。この客員部門のうち、とくに地域研究第一(外国人客員)研究部門は、東南アジアからの研究者をセンターの客員研究員として迎えるもので、この種の国際交流のための部門の設置は全国で最初の試みでもありました。1989年度には研究部門の大幅な編成替えが実施され、生態環境、社会生態、統合環境、地域発展、人間環境の5つの大部門14分野の研究機関に成長しました。

2001年4月より上記の5部門14分野を、「人間生態相関」、「社会文化相関」、「政治経済相関」の3研究部門に統合すると同時に、東南アジアの全体像の把握をめざす研究分野(「地域連関システム」)を含む新たな研究部門「地域相関動態」を設けました。また、2004年4月の京都大学附置研究所への改組により、「地域相関動態研究部門」を「統合地域研究研究部門」に再編して、国内・外国人客員を含めた研究体制を強化するとともに、「資料部」を「地域研究情報ネットワーク部」に再編して地域研究に関わる情報科学分野を開発する体制を整えました。また、全国的な地域研究の交流・連携を推進するために「地域研究企画推進室」を新たに設置し、統合地域研究研究部門と地域研究情報ネットワーク部が共同して地域研究コンソーシアムの運営に当たっています。

センターの時代から今日に至るまで、東南アジア研究所は地域研究を推進するために数々のプロジェクトを実施してきました。なかでも、文部省重点領域研究「総合的地域研究の手法確立――世界と地域の共存のパラダイムを求めて」(1993年度〜96年度)、そして大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)との共同になる文部科学省特別推進研究(COE)「アジア・アフリカにおける地域編成――原型・変容・転成」(1998年度〜2002年度)や21世紀COEプログラム「世界を先導する統合的地域研究拠点の形成」(2002年度〜2006年度)は、研究所全体のスタッフが参加する大型プロジェクトとして実施され、日本の東南アジア研究、地域研究の新たな展望を開くべく努力を重ねてきました。さらに2007年度には5カ年計画で、自然生態、政治経済、社会文化を包摂した総合的地域研究を人類の生存基盤を左右する先端的科学技術研究と融合させて、持続型生存基盤パラダイム研究を創成し、それを担う人材を育成することを目的としたグローバルCOEプログラム「生存基盤持続型の発展を目指す地域研究拠点」が始動しました。

また日本学術振興会の拠点大学方式による日本・タイ学術交流事業が、日本側は東南アジア研究所、タイ側はタマサート大学を拠点校として1986年に発足しました。日本とタイの研究者の研究交流推進を目的として始まったこの事業は、タイのみならず東南アジア各国の研究者による東南アジア研究へと軌道修正しつつ展開され、1999年度からは、タイ側の拠点校にチュラロンコン大学を加え、プロジェクト型研究交流を進めています。

東南アジア研究所におけるさまざまな研究活動の成果は、研究所が刊行する出版物を通じて発表されてます。1963年創刊の季刊学術誌『東南アジア研究』は、レフェリー制度のもとに学内外の東南アジア地域に関する重要な研究成果を掲載しており、研究所ホームページでも公開されています。

また研究所は、東南アジア地域研究の発展に寄与するオリジナルな学術研究の発表の場として、『東南アジア研究叢書』(和文英文)、『地域研究叢書』(和文英文)、アジア研究叢書Kyoto CSEAS Series on Asian Studies英文)を刊行しています。さらに、2002年には、日本語・英語と東南アジア諸言語(タイ語、インドネシア語、タガログ語)による、東南アジア地域に関する最新情報をレヴューするオンライン・ジャーナルKyoto Review of Southeast Asiaを立ち上げ、刊行しています。

東南アジア研究所は、大学院教育にも積極的に協力しています。研究所の大学院教育への協力は、1981年の農学研究科熱帯農学専攻の設置にともない、研究所(当時センター)の農学系の教員が協力講座を担当したのが最初です。その後1993年度に人間・環境学研究科の第二専攻(文化・地域環境学専攻)が発足するとともに、センターの教授・助教授ほぼ全員が東南アジア地域研究講座(協力講座)担当として参画しました。そして、1998年4月、アジア・アフリカ地域研究研究科の発足にともなって、大学院教育の場をこの研究科に移し、現在、研究所のほぼ全教員が東南アジア地域研究専攻の東南アジア地域論講座(協力講座)担当、あるいは東南アジア、アフリカの両専攻の共通課目担当として大学院教育をおこなっています。
<参考文献>
・東南アジア研究センター編、1993、地域研究へのあゆみ:東南アジア研究センターの25年、京都:京都大学東南アジア研究センター
・東南アジア研究センター編、2002、地域研究のあゆみ:東南アジア研究センター35年史、京都:京都大学東南アジア研究センター