京都大学東南アジア研究所ナビゲーションをスキップしてコンテンツへ 日本語 | English
サイトマップ | ローカルページ
Center forSoutheast Asian Studies Kyoto University

アーカイブ

科研費プロジェクト

「環ヒマラヤ広域圏における社会と生態資源変容の地域間比較研究」
研究代表者:山田 勇

研究目的
本研究の目的は、ヒマラヤ山脈と、それを取りまく5つの生態系の中で生態と人間とがいかに相互作用を及ぼしているか比較検討し、それぞれの地域内での詳細な調査と、地域相互間の関連性や特色を比較することによって環ヒマラヤ広域圏ともいうべき大地域の実像を明らかにしようとするものである。
ヒマラヤをとりまく東西南北の回廊は古くから東西南北シルロードを中心に広大な交易圏を形成し、中国、インド、チベット、パミール、中央アジア、モンゴルの大文化圏が成立した地域でもある。交易が盛んになった背景には、広大な地域に根付く多くの資源が存在するためであることによる。ヒマラヤ山脈は、その巨大さゆえに、その周辺に大きな影響を及ぼし、多様な文化社会生態空間を生み出した。
目的地域は、熱帯から亜寒帯までの広い地域を含み、かつ、文化生態的にも様々な民族の生活形態が見られる、世界でも最も多様性に富んだ地域である。文化社会生態空間の観点から、5地域にまとめられる。 
  • 1)湿潤アジア域:中国西南部の雲南、四川から東南アゾア大陸部一帯  
  • 2)南アジア大河川流域:ミャンマー、バングラデシュ、インドを含むモンスーンアジア域  
  • 3)中央・西アジア乾燥砂漠域:パキスタン、イラン、カザフスタンなど中央アジアー帯  
  • 4)チベット・モンゴル高原域:チベット、モンゴルー帯  
  • 5)ヒマラヤ域:ネパール、ブータン、シッキム一帯
科学研究費の期間内に明らかにする点は以下のようにまとめられる。
  • 1.湿潤アジア、南アジア大河流域、中央・西アジア乾燥砂漠地帯、チベット、モンゴル高原、およびヒマラヤ山系の5地域における生態資源の実態と特色の把握。特に人の地域間異動に伴う生態環境の変遷の中での生態資源の動態変容。
  • 2.5地域の相互比較と広域調査により、環ヒマラヤ広域圏の俯瞰的、総合的把握と、ユーラシア大陸内での位置づけ、とりわけ、国家や民族の枠にとらわれない垂直的重層構造の地域像の把握。
生態資源という概念は、単なる生物資源とは異なり、周辺の生態や環境を含んだ広義の新しい資源概念である。昨今の地球環境問題は生物多様性保全の名のもとに、ともすると資源のみを単独に取り上げ、周辺の状況を考えない風潮が多く見られる。生態資源は、風土の中で資源を把握することによって解明されるもので、人をも含めて、地域の人々の生活の根幹をなす総合的な資源の捉え方といえる。これまでの農業、林業、水産業などの枠を越えた、より地域の実態に即した分析と総合が可能な概念である。
ユーラシア大陸を理解する上で、ヒマラヤ山脈を中心に大地域圏を設定し、その特色を把握する試みは、極めて重要なものである。人間の動きは、単なる国家や地域の枠にとらわれず、きわめて広域にわたっている。この実態を知るためには、地域研究は、常に地域の詳細な調査とともに、俯瞰的、総合的に地域を把握する作業が求められるが、この両者の兼ね備わった研究は、これまでなかった。本研究では当該地域の定点調査と広域調査を併用することによって、これまでの平面的な生態観とは別な垂直方向の重層構造の中で、人がいかに動き、環境と資源とがどう変化して行ったかをダイナミックにとらえることができ、新しい地域像が描けることが予想できる。そして、この方法論は、今後、世界の他地域を考える時に応用できるきわめてパイオニア的な性格を持っており、相互連関的かつ総合的地域把握を行うためのモデルとなりうる
業績概要(平成16年度)
第3年目の本年度は、ヒマラヤ山脈を取りまく多様な文化社会生態空間を把握するために、初年度の予備調査、第二年度の第一次本調査による成果を基に広域班と個別地域班とにより第二次本調査を行った。
広域班
四川チベット、西チベットに続いて、本年度は東チベットとブータンの調査をおこなった。これら一連の調査によって、環ヒマラヤ広域圏の北方から東方にかけての概観がつかめた。ヒマヤラ山脈は東へ向うにつれ、谷が深くなり、かつ植生も豊かになっていく。南北の交易路が古くから発達し、とりわけチベットの塩を南のインド、ネパール、ブータンへ運ぶことが重要な交易であった。最近では、中国東海岸の市場開放後の好景気により、チベットの生態資源、たとえば冬虫夏草などが極めて高額で取引されるようになり、辺境地域をうるおしている。ブータンの山地帯には、モミと照葉樹林を中心とした原生林がよく保存されていた。
個別地域班
モンゴル高原班では、牧畜一元論の立場に立脚し、西アジアから北アジアへと伝播した乳加工技術の変遷過程を分析するために、モンゴル国中央部で乳加工技術について調査した。北アジアの乳加工体系は、西アジアの発酵乳系列群の加工技術を基本とし、「冷涼性」という文化伝播フィルターにより、クリーム分離系列群へと変遷していったことが示唆された。この乳加工技術の地域間比較研究も、ユーラシア大陸における牧畜一元論の仮説を強く支持するものであった。
アジア大河川流域班では、インドにおいて、生態資源や常畑地帯の雑草防除法について調査すると共に、農具の収集に努めた。この農具の形態比較から、生態資源利用法の多様性を検討し、農耕技術の伝播と変遷の一部を明らかにした。また、様々な文化社会生態空間への人類の適応性を検討するために、ミャンマー、ベトナム、インドとで様々な民族集団の移動と生活の変容にについて聞き取り調査を実地した。
業績概要(平成15年度)
 第2年目の本年度は、ヒマラヤ山脈を取りまく多様な文化社会生態空間を把握するために、前年度の予備調査による成果を基に広域班と個別地域班とにより本調査を行った。
広域班
中国チベット自治区のラサからパキスタン国境にかけて、チベット牧畜民の家畜管理、乳加工の技術体系、野性動物の狩猟と野性植物の採集など、牧畜システム・生態利用・社会構造について広域に現地調査を行った。チベット牧畜民は、かつて、生活と生産物管理とが中央集権によって統制さていた。このような、ダライラマを頂点とする超大ヒエラルキー下の牧畜生活がいかに変容したかを、文化社会生態空間面から明らかにした。
個別地域班
ヒマラヤ班では、生態資源を農耕・牧畜・林野の複合体として捉え、地域的差異、流通、人の移動などに着目して、生態資源複合体の許容力と限界性についてネパールを事例に調査を行った。自然障害による流通の遮断、資本集約化による経済混乱、組織・行政の未整備などの諸問題を明らかにし、生態資源複合体を文化社会生態学的に分析した。更に、焼畑と常畑との人口扶養力を理論生態学的に比較分析し、焼畑は常畑より人口扶養力が高いとの仮説を提起した。
中央アジア・西アジア乾燥沙漠班では、生態資源と社会変容、牧畜民、水資源などについてイラン全域で調査を行った。かつて牧畜民は、治安維持の必要性から部族連合を形成し、その政治的勢力が宿営地の場所や移動ルート、生産物の生産法や換金法に多大な影響を与えていたことを明らかにした。
アジア大河川流域班では、インドにおいて、生態資源を調査すると共に、農具の収集に努めた。この農具の形態比較から、生態資源利用法の多様性を検討し、農耕技術の伝播と変遷の一部を明らかにした。また、様々な文化社会生態空間への人類の適応性を検討するために、ミャンマー、ベトナム、ラオスとで老年医学的検診を実地し、本プロジェクトの視座を人類医学へ理論展開を試みた。
業績概要(平成14年度)
ヒマラヤ山脈を取りまく多様な文化社会生態空間を把握するために、本年度は、1) 湿潤アジア域、2) 南アジア大河川流域、3)ヒマラヤ域、4)中央・西アジア乾燥砂漠域のそれぞれにおいて予備的な調査をおこなった。
湿潤アジア域では、中国西南部の雲南・四川省およびミャンマー北部において、森林植生、高地草原植生、およびチベット族による森林資源利用と山地草原利用について広く現地調査した。標高1000mの平地地帯から5000mの山岳地帯まで、高度に対応した生態分布と生態利用、特に森林植生と森林資源利用の変化を観察した。牧畜に関する調査では、乳利用の側面から西南アジアと中央アジアの牧畜技術が重層的にチベット牧畜に影響していることを明らかにした。
アジア大河川流域では、畑作技術や牧畜技術について調査した。インド南部での調査では、乾燥した常畑地帯は湿潤な焼畑地帯よりも栽培法の自由度が高く、環境条件以外の要因で栽培法が決まりやすいことが明らかとなった。インド西部のアッサムでの調査では、農耕システムを調査すると共に、農耕技術に関して周辺地域と比較研究した。牧畜調査においては、インドの乳文化は西南アジア文化圏の延長線上にあり、北方の中央アジア圏や北アジア圏とは基本的に断絶していることが明らかとなった。
ヒマラヤ域においては、ヒマラヤ地域の人の移動と定着、複合農業、農畜林産物の流通、村内地域住民の組織を含む一帯の生態環境と資源利用について比較研究を推進するために、ネパールのカトマンズ周辺とブータンのティンプ周辺で、生態環境や資源利用について調査をおこなった。
中央・西アジア乾燥砂漠域では、アフガニスタンにおいて灌漑施設を中心に農業システムに関する予備的な調査を行った。
以上、本年度は、環ヒマラヤ広域圏という水平軸と垂直軸における文化社会生態変容の地域間比較研究を行うために、最初の予備的な調査を実地したものである。
フィールド調査一覧
  1. 調査期間:平成17年7月15日-8月13日
  2. 調査地域:チベット、シルクロード
  3. 調査内容:環ヒマラヤ広域圏における社会と生態資源変容の研究
  4. 研究者名:山田勇
  1. 調査期間:平成18年2月10日-2月22日
  2. 調査地域:タジキスタン
  3. 調査内容:環ヒマラヤ広域圏における社会と生態資源変容の研究
  4. 研究者名:山田勇
出版
  1. 著者名:山田 勇
  2. 発行年:2005年
  3. 論文標題:京都発地球生態資源への旅⑮美しき谷
  4. 雑誌名:科学
  5. 巻・号:75
  6. 掲載ページ:227-233
  1. 著者名:Momose, K. and T.Shimamura
  2. 発行年:2004年
  3. 論文標題:Malay Riverbank Community: Environment, Network and Transformation
  4. 雑誌名:Kyoto Area Studies on Asia
  5. 巻・号:8
  6. 掲載ページ537-560
  1. 著者名:Momose, K.
  2. 発行年:2004年
  3. 論文標題:Plant Reproductive Interval and Population Density in a Seasonal Tropics
  4. 雑誌名:Ecological Research
  5. 巻・号:19(2)
  6. 掲載ページ245-253
  1. 著者名:マハラジャン、ケシャブ・ラル
  2. 発行年:2005年
  3. 論文標題:ネパール・インド間の貿易の現状と課題-ネパール側からの考察を中心に-
  4. 雑誌名:広島大学総合地誌研究資料センター年報
  5. 巻・号:14
  6. 掲載ページ101-124
  1. 著者名:Takeda Shinya
  2. 発行年:2004年
  3. 論文標題:Management of Non-timber Forest Products in Laos: Fallow Forest Growing Styrax tonkinensis for Benzoin Production
  4. 雑誌名:Ecological Destruction, Health, and Development
  5. 巻・号:
  6. 掲載ページ521-530
  1. 著者名:平田昌弘・原隆一
  2. 発行年:2004年
  3. 論文標題:イラン南部における乳加工体系の多様性
  4. 雑誌名:沙漠研究
  5. 巻・号:14(2)
  6. 掲載ページ115-120
  1. 著者名:梅棹忠夫・山本紀夫
  2. 発行年:2004年
  3. 出版社:岩波書店
  4. 書名:山の世界ー自然・文化・暮らし
  5. 総ページ:344
  1. 著者名:山田 勇
  2. 発行年:2003年
  3. 論文標題:世界の森をあるく⑥世界の森への道
  4. 雑誌名:エコソフィア
  5. 巻・号12
  6. 掲載ページ:72-79
  1. 著者名:山田 勇
  2. 発行年:2004年
  3. 論文標題:京都発地球生態資源への旅②イランという国
  4. 雑誌名:科学
  5. 巻・号:74(12)
  6. 掲載ページ:125-130
  1. 著者名:安藤 和雄
  2. 発行年:2004年
  3. 論文標題:バングラデシュの農村開発における在地化アプローチの重要性
  4. 雑誌名:熱帯農業
  5. 巻・号:78(1)
  6. 掲載ページ:95-96
  1. 著者名:原 隆一
  2. 発行年:2003年
  3. 論文標題:The impact of Modernization on State-Tribe Relations in Iran
  4. 雑誌名:大東アジア学論集
  5. 巻・号:3
  6. 掲載ページ:177-187
  1. 著者名:平田 昌弘
  2. 発行年:2003年
  3. 論文標題:ユーラシア大陸乾燥地帯における乳文化圏二元論
  4. 雑誌名:西アジア考古学
  5. 巻・号:4
  6. 掲載ページ:21-30
  1. 著者名:松林 公蔵
  2. 発行年:2003年
  3. 論文標題:医学における普遍性と多様性?フィールド医学の現場からー
  4. 雑誌名:エコソフィア
  5. 巻・号:12
  6. 掲載ページ:90-95
  1. 著者名:マハラジャン・ケシャブ・ラル
  2. 発行年:2003年
  3. 出版者:Hiroshima University
  4. 書名:Peasantry in Nepal: A Study on Subsistence Farmers and Their Activities Pertaining to Food Security
  5. 総ページ:123
  1. 著者名:山田 勇
  2. 発行年:2002年
  3. 論文標題:エコツーリズムと生態資源
  4. 雑誌名:科学
  5. 巻・号:72(12)
  6. 掲載ページ:693-695
  1. 著者名:山田 勇
  2. 発行年:2002年
  3. 論文標題:山の森世界
  4. 雑誌名:科学
  5. 巻・号:72(7)
  6. 掲載ページ:1221-1225
  1. 著者名:マハラジャン・ケシャブ・ラル
  2. 発行年:2002年
  3. 論文標題:Salient Features of Farming in Kathmandu Valley of Nepal
  4. 雑誌名:Sustainable Agriculture, Poverty and Food Security
  5. 巻・号:
  6. 掲載ページ:256-279
  1. 著者名:マハラジャン・ケシャブ・ラル
  2. 発行年:2002年
  3. 論文標題:Sustenance of Resource Management and Food Procuring and Civil Society Organization in Nepal
  4. 雑誌名:Translating Development: The Case of Nepal
  5. 巻・号:
  6. 掲載ページ:46-62
  1. 著者名:平田 昌弘
  2. 発行年:2002年
  3. 論文標題:中央アジアの乳加工体系−カザフ系牧畜民の事例を通して
  4. 雑誌名:民族學研究
  5. 巻・号:67(2)
  6. 掲載ページ:158-182
  1. 著者名:河合 明宣
  2. 発行年:2002年
  3. 論文標題:ヒマラヤ山岳地域振興と観光
  4. 雑誌名:放送大学研究年報
  5. 巻・号:20
  6. 掲載ページ:153-179
  1. 著者名:原 隆一
  2. 発行年:2003年
  3. 出版者:シルクロード学研究センター
  4. 書名:カシュガル地方の伝統的生産と生活文化(シルクロード学研究 No.16)
  5. 総ページ:200
  1.